DVやストーカー被害など、特別な事情を抱えた人々の引越しを手伝う業者「夜逃げ屋」。その「夜逃げ屋」を題材にしたコミックエッセイ『夜逃げ屋日記』(KADOKAWA)が話題を呼んでいる。作者の宮野シンイチさんは、漫画家として活動するかたわら、夜逃げ専門引っ越し業者「夜逃げ屋TSC」の仕事に従事し、働く人の視点から、夜逃げをする人々の苦しみや葛藤を描いている。
そんな宮野さんに、夜逃げをする人が抱える苦悩や、『夜逃げ屋日記』を通して伝えたいメッセージなどについて、話を聞いた。(全2回の2回目/1回目から続く)
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両親と兄から奴隷のような扱いを受けていた依頼者
――夜逃げを依頼する方はDV被害者が7割だそうですね。前編では、パートナーのDVから逃れるために夜逃げをした女性の話を伺いましたが、他にはどんな方からの依頼が多いのでしょうか。
宮野シンイチさん(以下、宮野) 親や兄弟など、家族からのDVに悩んで依頼される方も多いですね。漫画だと、村田敏夫さん(仮名・36歳)のケースがそれに当たります。
村田さんの両親は学校の成績が良い兄だけを溺愛し、弟の村田さんは「失敗作」「病原菌」と呼んでいたそうです。それだけでなく、幼い頃から身体的な虐待も繰り返していた。
村田さんは大人になってからも両親と兄から奴隷のような扱いを受けていましたが、父親が亡くなり、母親が寝たきりになったのをきっかけに、今の生活から逃げようと考え、夜逃げ屋を利用したんです。
廃品回収業者を装って夜逃げを行うことに
――家族の呪縛から逃れようと決意したのですね。
宮野 ただ、村田さんは、過去に5回も夜逃げ直前でキャンセルしたことがあるんです。それを聞いたとき、「何度もキャンセルをして、大丈夫かな」と感じてしまったんですよ。でも、村田さんと対面して現場に入ったら、そんなことは思えなくなってしまって。
――夜逃げ当日の村田さんはどんな様子でしたか。
宮野 待ち合わせに現れた村田さんは、実際の年齢よりかなり老け込んで見えました。彼は幼い頃から暴力を受け続けてきたストレスで、身も心もボロボロになっていたんです。