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家族に「病原菌」と呼ばれて“奴隷扱い”…「30年以上虐待され続けた」36歳男性が“夜逃げ”で地獄の生活から抜け出すまで【マンガあり】

『夜逃げ屋日記』著者・宮野シンイチさんインタビュー #2

2023/11/03
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夜逃げ後の近況報告をしてくれる依頼者も

――村田さんは夜逃げ後、生活を立て直すことができたのでしょうか?

宮野 現在は遠く離れた町の工場で働きながら、以前から興味のあった登山を楽しんでいると連絡がありました。

 村田さんにとっては、36年間地獄なのが“当たり前”でした。それ以外の生活を知らないから、新しい生活は不安で仕方なかったはず。それでも彼は自分の意思で一歩を踏み出した。だから、今の生活があるのだと思います。

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自分の意思で一歩を踏み出した村田さん(『夜逃げ屋日記』より)

――村田さんのように、夜逃げ後の近況報告をしてくれる依頼者もいるのですね。

宮野 村田さんは手紙で報告してくれたのですが、元依頼者の方々が夜逃げ後の近況報告をする座談会を開催することもあるんですよ。先ほどお話しした、夫のDVから逃れるために夜逃げした石田理恵さんも、座談会に参加してくれました。

――石田さんは夜逃げ後どうなったのですか?

宮野 僕から言えることは、「元依頼者の座談会に無事参加していた」までですね。これでいろいろ察していただけると嬉しいです。

最近は『夜逃げ屋日記』を読んで依頼してくれる人がちらほら

――ちなみに、元依頼者の方々は漫画『夜逃げ屋日記』について知っているのでしょうか。

宮野 僕はもともと、漫画にするために夜逃げ屋の仕事を始めました。だから、座談会で元依頼者の方たちに「漫画にしても良いかどうか」を聞いて回ったんです。

 ただ、みなさん辛い思いをして夜逃げをしてきたわけだから、僕が聞いて回ることで嫌な思いをさせてしまうんじゃないかという不安もありました。

 でも、「私たちの体験をなかったことにしたくない」「ぜひ描き残してほしい」という方がほとんどで。なかには、「応援しています」と僕の手を力強く握りしめてくれた人もいました。

夜逃げ屋での実体験をもとにマンガを描く宮野シンイチさん(写真=宮野さん提供)

――夜逃げ屋の情報を漫画として届けることで、自分と同じような境遇の人を助けたい、という思いがあったのかもしれません。

宮野 そうかもしれません。実は、ここ最近「『夜逃げ屋日記』を読んで連絡しました」という依頼が何件かあって。