――『夜逃げ屋日記』が多くの人に届いている証ですね。
宮野 夜逃げ屋の仕事は、刃物を振り回されたり、殴られたりすることもあります。精神的に辛いことも多い。それでも最近は、「夜逃げの現場や座談会で出会った人たちの思いを、ちゃんと漫画にして世の中に届けることが、僕の使命なのかもしれない」と思っています。僕の漫画が、誰かの救いになっていると嬉しいですね。
夜逃げに早い遅いや勝ち負けなどはない
――8年働いた今、夜逃げ屋という仕事をどう捉えていますか。
宮野 夜逃げは、DVやストーカー被害者の最後の拠り所のひとつなんじゃないかと思っています。夜逃げ屋ではなく、親戚や友人、警察などに頼った方がいいケースもあるはず。でも、頼れる知人がいないとか、警察に相談したのにまともに取り合ってもらえなかったとか、何らかの事情でそれが叶わない人たちがいます。そんな人たちがたどり着くのが、「夜逃げ」という選択肢なんです。
例えば、70代のおばあちゃんが夜逃げをすると言ったら、「いまさら」と思う人もいるはず。以前の僕もそうでした。でも、夜逃げに遅いとか早いとか、勝ち負けはないんです。依頼者たちが、夜逃げをしたあとの人生を「幸せ」と思えるのなら、きっとその人にとって最善の選択なのだと思います。
自分が思っている以上にDVやストーカーは身近で起こっている
――自分のいる場所が本当に辛かったら、勇気を持って「逃げる」選択もできる。そして夜逃げは、逃げるための選択肢のひとつだと。最後に、文春オンラインの読者に向けてメッセージをいただけますか。
宮野 僕はもともと、「夜逃げ」とは無縁の人間でした。でも夜逃げの現場を通じて、自分が思う以上に、被害者や加害者が身近にいることを知りました。気付いていないだけで、DVやストーカーは身の回りで起こっていることなんです。
だから「自分には関係ない」と思っている人にこそ、世の中にはこんな世界があることを知ってほしい。そして、もし悩んでいる人が近くにいたら、「夜逃げ」という選択肢があることを教えてあげてほしいです。