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ある日突然、浮気相手の女の子が、家に電話をかけてきたことがあった。しかも不運なことに、在宅していたカミさんが受話器を取ってしまったのだ。
「あの人は、私の旦那です。あなたにこんな電話をかけてこられても、困るんですよ。私はいつも、あの人と一緒にいますから!」
幸か不幸か、僕はその場にいなかった。後で浮気相手の女の子に聞かされて、初めて事の次第を知ったのだ。
“僕の浮気の代償”
青ざめると同時に、僕の頭には疑問が浮かんだ。
なぜ、カミさんは、そのことを僕に言わなかったんだろう?
普通ならば、すぐさま「なんなのよ! あの子は!?」「信じられない!! コソコソと外で女を作っていたなんて!」と、怒りのままに僕を責め立てるものなんじゃないだろうか。だが、もしかしたら……。
彼女が知らないフリをしていたのは、「夫を肉体的に満足させられない」という負い目からなんだろうか。
カミさんの心の内を想像すると、僕はやりきれない思いに襲われた。
正面切ってなじられるよりも、沈黙されるほうがずっとしんどい。ずっと切ない。カミさんの激しい苦しみが伝わってきてしまうから……。
それを痛いほど思い知らされたことが、“僕の浮気の代償”だったのかもしれない。