11月6日、フィリピンを拠点にした特殊詐欺組織“ルフィグループ”のメンバーだった熊井ひとみ被告(26)の初公判が開かれた。熊井被告は、高齢女性に虚偽の電話をかけ、キャッシュカードを盗み、およそ410万円の現金を引き出した窃盗の罪に問われている。
法廷で弁護側は、共犯者との間に生まれた子どものために「服役させるべきではない」と主張。彼女に何が起きていたのか。その共犯者である藤田海里(24)の初公判を報じた「週刊文春」の記事を再公開する。(初出=2023年10月1日/年齢・肩書きは当時のまま)。
◆ ◆ ◆
藤田が日本に一時帰国したのは、2019年8月10日のことだった。幹部に「日本のブランド品を買い付けてこい」と命じられたのだ。東京都内の実家に立ち寄った藤田は組織からの逃亡を試みる。だが、すぐに執拗な呪縛が包囲した。
「すぐに『今井』こと小島から電話がかかってきて『すぐ家の外に出るように』と言われて家の外に出たら今井の部下だという者がいて、その者から『見張っているから逃げたりしないように』と強く言われて……。本当に見張られているんだという感情になって、警察などに言うことが出来ませんでした。帰国前、『もし警察などに駆け込んだら親兄弟などに危害を加える』と言われていたので警察に言うこともできなかった」(藤田の法廷証言)
公判で弁護人から「逃げることはできなかったのか」と聞かれると、藤田は繰り返し「捕まって何かされるということが怖くて出来ませんでした」と顔を歪ませるのだった。だが、地獄の日々を漂いながら藤田が心の拠り所にしていたのが、熊井と共に過ごす刻だった。
熊井の祖父は、高知県議を5期務めた地元の名士だった。会社員の両親のもと、3人きょうだいの末っ子として育てられた熊井は高校卒業後、多摩美術大に進学。全国の大学新入生を対象とした「ミスフレッシュキャンパス」に応募し、将来の夢として「人を笑顔にする仕事がしたいです」と語った。だが、熊井は次第に迷走を始める。
パパ活に精を出し、グッチやルイ・ヴィトンなどの高級ブランド品を買い漁った。3年時に退学すると、淫奔な日常に漂い、周囲との関係を断ち切った。19年、熊井はフィリピンに渡航し、詐欺グループの一味に成り果てたのだ。