「耳の中には本来細い産毛が生えていますが、耳をかき過ぎている人の耳の中を顕微鏡で見ると、その毛さえ抜け落ちている。医療的な処置としては、かゆみ止めや抗菌薬を塗ったり飲んだりといったところですが、薬を使ったところで耳かきをやめなければ改善は見込めません」(木村医師)
木村医師によると、耳垢にも役目があるという。それは耳の中に侵入してきたちりやごみの吸着と保湿だ。
「つまり、耳垢は耳に入ってきたちりやごみから外耳道や鼓膜を守っているのです。耳には自浄作用があって、耳掃除をしなくても耳垢は奥から外へと自然に移動し、最後は剥がれ落ちる仕組みになっています。アメリカの耳鼻咽喉科学会では『耳掃除はするべきではない』というガイドラインまで作成している。耳そうじをすることで得られるメリットより、リスクのほうが大きい――と判断しているのです」(同前)
では、耳垢は放置すべきなのか
耳かきのし過ぎによるリスクは、先に触れた外耳道湿疹ばかりではない。時には「がん」を引き起こす危険性もあるという。
「外耳道がんという病気があります。非常に珍しい希少がんの一つで、耳の掻き過ぎが原因というわけではないものの、このがんの患者には耳かきが癖になっている人が多いという報告がある。何らかの因果関係があっても不思議ではない」(同前)
では、耳垢は放置すべきなのか。
木村医師は、ケース・バイ・ケースだという。
「耳垢が過剰に溜まり過ぎると、耳垢栓塞(じこうせんそく)といって聞こえが悪くなることがある。また補聴器を使っている人は、耳垢が補聴器の機能を下げることもある。そんな時には耳鼻咽喉科で掃除することもあります。その方法は、鉗子でつまみ出す、機械で吸引する、あるいは生理用食塩水で洗い流す、など。自分で掃除をしたいなら、1~2週間に1度程度、強い刺激を与えないレベルで掃除するならいいでしょう」
木村医師によると、竹の棒ではなく綿棒を使い、風呂上りなど耳に適度な湿潤があるときにやさしくふき取る程度で十分とのこと。耳の中が乾いた状態の時は、そのまま綿棒を使うと刺激になるので、少量の水やオリーブオイルなどで綿棒の先を湿らせてから使うといい。間違っても釘のアタマなどで擦ってはいけない。
耳が聞こえるのに耳の穴が痛むときは、かなりの確率で急性外耳道炎が起きていて、急性外耳道炎の原因のほとんどが耳かきのし過ぎだという。
この記事を読んでいただいたのも何かの縁です。とりあえず2週間、耳そうじを我慢してみませんか?