文春オンライン

箱根で味わう、ガラス工芸家・ガレと日本文化の「相思相愛関係」

アートな土曜日

2018/03/24
note

 緑が日に日に濃くなっていくこの時節は、箱根を訪れるのにいいタイミング。芦ノ湖でスワンボートに乗ったり温泉に浸かるのもいいけれど、ぜひおすすめしたいのが美術館探訪だ。箱根には多様な館が点在していて、当然ながらどこも立地環境は抜群。街で美術館巡りするときよりも、ずっとゆったり気分でアートに触れられる。

 優美な雰囲気をお求めの向きには、今なら仙石原のポーラ美術館がいい。「エミール・ガレ 自然の蒐集」展を開催中である。

撮影:加藤 健

国内のガレ・コレクションが集結

 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ガラス工芸の分野で名を馳せたのがフランスのシャルル・マルタン・エミール・ガレ。ときは自然美に倣った流麗な曲線で造形を成す、アール・ヌーヴォーという美術様式の興隆期。ガレはその中心人物のひとりとして、精力的に作品を世に問うていった。

ADVERTISEMENT

 動植物をモチーフにした色とりどりのガレの花瓶や杯は、日本でもたいへん人気が高い。さまざまな展示で引っ張りだこゆえ、見覚えのある人も多いはず。

「蜻蛉文脚付杯」ヤマザキマザック美術館蔵

 ただしガレがつくるのは基本的に工芸品で、大作などはあまりない。それで、彼の作品にだけスポットを当てる展示は限られてしまう。今展は、約130点ものガレの優品ばかりを一堂に集めたもの。その意味ではなかなか貴重な機会となっている。

 出品作は、国内の各所に収蔵されているものばかり。ポーラ美術館所蔵の60点と、北澤美術館やサントリー美術館など一大ガレ・コレクションを持つ施設から運ばれてきたものを併せてある。これほど豊富に作品を蔵していることから見ても、ガレと日本の抜群の相性のよさが窺える。

撮影:加藤 健

日本趣味をふんだんに取り入れて生まれたガレの芸術

 それもいわば当然であって、ガレの創作はもともと日本の美を参照しながら築き上げられたもの。19世紀後半のフランスでは、ジャポニスムと呼ばれる日本趣味ブームが沸き起こっていた。1867年のパリ万国博覧会に日本が初めて参加し、2000点もの文物を展示したのがきっかけだった。

 猫や龍、菊の花など自然物を自在にデザイン化して取り入れた陶器の置物や、葛飾北斎ら浮世絵画家の作品は、西洋美術が培ってきた造形技法・構図・色使いと根本的に異なる原理でできており、彼の地の人々を驚かせた。若き日のガレもパリ万博を実見し、決定的に感化されたのだった。

「草花文脚付杯」ポーラ美術館蔵

 熱心な自然博物学研究者でもあったガレは、日本美術に触れて我が意を得た。バラ、ダリア、菊などの花々、トンボ、カブトムシなどの昆虫、クラゲをはじめとする海洋生物まで。夢中になっていた動植物の姿形を次々とデザイン化し、作品に貪欲に取り入れていった。常に自然とともにある日本の美術や意匠を見慣れたわたしたちの眼に、ガレ作品が親しみを持って感じられるのは自明なのだった。

 ガレの初期から晩年までの作品を網羅した今展の会場で、日本文化をかたちづくっている感性とガレ作品の「相思相愛関係」を、じっくり確認してみたい。

箱根で味わう、ガラス工芸家・ガレと日本文化の「相思相愛関係」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー