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「そのやり方で火星には行けません」イーロン・マスクがNASA相手に裁判をしてまで“コストカット”にこだわったシンプルな理由

公式伝記『イーロン・マスク』特集 #16

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 マスクはまた、試作品をさっと作って失敗することを繰り返す「反復型のアプローチ」を採用した。なにが問題なのかをいかに早く突き止め、いかにそれを直すのか。それが大事だからだ。

©時事通信社

クライアントであるNASAを相手に訴訟も辞さず

 あるときは、ひびの入ったロケットエンジンの部品を接着剤で直すという、常識外れの修理方法をマスクが提案。反対するエンジン開発部門トップと怒鳴り合いの大げんかが起きた。

 マスクは出席予定だったクリスマスパーティをキャンセル。一晩中みずから接着剤を塗る作業を手伝ってやり遂げた。履いていたパーティ用の革ブーツは作業でぼろぼろになった。

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 じつはこの修理方法は失敗であるとのちに判明することになる。とはいえ「新しいやり方は試す、失敗覚悟でやってみる」との方針が定まった。

 スペースXのロケット試験場近くの住人は、爆発に慣れっこになったそうだ。

 マスクはNASAからの受注競争でも大活躍した。果敢なスタートアップ経営者であり技術情報に詳しいマスクは、NASA副長官を魅了する。

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 しかし、ひとたびライバル社へ受注が流れそうになると腹を立てて、訴訟を起こした。財務状況が悪く倒産しそうだったライバル社を救済すべく、国際宇宙ステーションに各種物資を運ぶ契約をNASAがあえて競争入札にしなかった時だ。

 訴訟はスペースXの勝ちとなり、NASAは競争入札で選び直すよう命じられ、結果的にスペースXはかなりの部分を請け負うことになった。「掛け率10対1の大穴をものにした」ともいわれる、まさかの大逆転だった。