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「死ぬリスクを負ってまで、行く意味とは」野口聡一が“宇宙飛行の意味”を考えるようになった空中分解事故

2022/09/17
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文藝春秋2022年10月号より、科学ジャーナリスト・須田桃子氏による「文藝春秋が伝えた科学の肉声」の一部を掲載します。

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大気圏で燃え尽きようとしていた

 今回、文藝春秋に掲載されたおよそ100年分の科学に関する記事を読んで感じたのは、科学や技術は着実に、分野によっては相当のスピードで進歩しているということだ。

 一方で、新たな技術は恩恵や利益だけでなく、新たな倫理的・社会的課題をもたらし、時には一般社会との軋轢を引き起こす。そうした課題についての本質的な議論が深まらないまま、技術ばかりが先行している分野もある。また、科学の知見を政治や行政の判断に活かしていくことも重要なはずだが、日本ではこの部分が成熟しておらず、様々な分野で同じ過ちが繰り返されているように見える。

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宇宙から見た地球 ©NASA/JAXA

 今回は「宇宙開発」「生命科学」「原子力・地震」「研究不正」「科学技術政策」「科学とは何か」の6つのテーマに絞り、科学の本質や社会との関係性を考える上で重要と思われる記事を選んだ(記事中の肩書は掲載時)。

宇宙飛行士はカプセルもろとも燃え尽きてしまう

 文藝春秋は宇宙開発の初期から、国内外の宇宙飛行士たちの肉声を伝えてきた。ミッションに「人類初」の枕詞がついて回った初期の飛行士たちに際立つのは、沈着冷静ぶりだ。米空軍のジョン・グレン中佐は「宇宙最悪の旅」(1962年5月号)で、米国人として初の有人地球周回の一部始終を記している。ソ連のユーリ・ガガーリン氏が、人類初の有人宇宙飛行に成功した翌年のことだった。

 1周目の終わりに自動操縦装置に故障が発生し、グレン氏はそれ以降、大部分を自分の手で操縦する。3周目の後に帰還することになったが、ここで最大の危機が訪れた。カプセル(宇宙船)の遮熱装置が外れる可能性が浮上したのだ。それがなければ大気圏突入後、1500度以上の熱にさらされ、飛行士はカプセルもろとも燃え尽きてしまう。

 だがグレン氏は、類まれな精神力を発揮する。「たとえ最悪の事態が起こっているにしても、私としてはこれを防ぐことはできないのだし、どちらに転ぶにしてもこの危機は長くは続かないだろう。そこで私は人事を尽くして天命を待つといった気持ちで、その時に私がなし得たこと——つまりカプセルの平衡を保つことに努力した」