「人類は火星に行くべきだ」との強い思いから、宇宙開発をミッションに掲げた若き日のマスク。しかし、お金がいくらあっても足りないと、仲間からは大反対に遭ってしまう。発売されるなり20万部突破のベストセラーとなった異色の公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、スペースX設立当時のエピソードを紹介する。
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「火星を開拓する」との目標を掲げた若き日のイーロン・マスク。
だが当初は、小さな温室を火星に打ち上げるという、ささやかな計画だった。コストを抑えるべくロシア製の中古ロケットを買おうとなり、スカウトしたロケット技術者と昔の仲間との3人でロシアへ向かう。
だがロシア側の売り手との会食で、ウオッカ攻めに遭ってしまう。酒に強いほうではないマスクは、手で頭を支えて耐えていたが、気を失いテーブルに頭をぶつけてしまった。
また別の会食では、マスクが「人類は複数惑星に広がる必要がある」との持論を展開したところ、「このロケットは、おためごかしのミッションで火星に行く資本主義者に使わせるものじゃあねぇ」と怒られてしまう。
「ぼく、お金ないのかい?」
マスクはそれでも、ふたたびロシアを訪れる。しかし、値段を吊り上げられて交渉はうまく行かなかった。「ぼく、お金ないのかい?」みたいな、なぶって楽しんでいるような扱いを受けたのだ。
しかし、交渉がうまく行かなかったことは、結果として幸いだった。なぜならマスクは、中古ロケットを使うささやかな計画を止めて、もっと大胆な計画に乗り出すことにしたからだ。すなわち衛星や人を地球軌道へ運べるロケット、最終的には火星やもっと遠くまで飛ばせるロケットをつくる民間企業を立ち上げると決意したのだ。