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 この勝利は、アメリカの航空宇宙計画に大転換をもたらすことになる。NASAや国防省は従来の基本であった「実費精算契約」から、「固定価格契約」を増やすようになったからだ。

©時事通信社

「実費精算契約」では、政府の管理下のもと細かな仕様を定め、ボーイングやロッキードなど大会社が契約を獲得し、開発にかかった実費と定められた利益を得ていた。もとは第二次世界大戦中に広まったやり方である。武器開発を政府の管理下に置き、また戦争から企業が利益を得ていると後ろ指をさされないようにするためだ。

「でも、そのやり方で火星には行けません」

 けれども実際のところは、費用がかさむほどに大会社が得る利益は増える。政府から大金をもらい続けられる大会社はコスト削減やリスクを取ることとは無縁になり、イノベーションも起こせなくなる。マスクはそれが許せなかったのだ。

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「ボーイングもロッキードも、実費精算のぼろ儲けが続いてくれればいいと願っています。でも、そのやり方で火星には行けません。完遂するインセンティブ(動機)がないのです」

 一方、成果主義のマスクが推す「固定価格契約」なら、どういうロケットをどう作るのか、スペースXがかなり自由に開発を進められる。費用対効果の高いロケットが作れれば、スペースXは大儲けができるはずだし、作れなければ大損することになる。

「無駄に対してではなく、結果に報いるやり方です」

イーロン・マスク 上

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ウォルター・アイザックソン ,井口 耕二

文藝春秋

2023年9月13日 発売