大久保公園を囲む道路や、隣接する複合ビル「ハイジア」、大久保病院の一帯は、以前から女性が身体を売るスポットとして知られていた。しかし、ここ数年で“立ちんぼ”をする若年層の女性が急増している。彼女たちはなぜ歌舞伎町に集うのか。

 ここでは毎日新聞社会部記者の春増翔太氏の『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)の一部を抜粋。北海道の小さな町から歌舞伎町を訪れ、路上で体を売って暮らすユズ(26)のエピソードを紹介する。

*記事に登場する「カタカナ」表記の名前は仮名です

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ネカフェ暮らしのユズ

 ユズはいつも「体が痛い」と言っていた。首だったり、背中だったり。「ネカフェの個室だと、体を伸ばして寝られないんだよね。誰かとシェアしていることもあるし、荷物あるし」。店によって料金体系は違うが、割安な店ではその代わり、シャワーや洗濯機を使う際に追加で数百円が必要だった。

写真はイメージ ©️AFLO

 歌舞伎町で売春をして暮らす女の子たちの中で、ユズのようにネットカフェを転々とする子は少なくない。24時間パックの場合、料金はおおむね4000円前後。あてがわれるのは、窮屈な個室だ。しかも、物価高のあおりを受けて、料金は少しずつ上がっている。だから、眠る時間だけネットカフェにいて、それ以外は公園や街中で時間をつぶして、金を節約する女の子もいる。大抵は支払いに追われていて、毎日、次の日の滞在料を払って更新を繰り返す。1週間パックにすれば多少は割安になるが、ユズの場合、まとまった現金が手元にあればホストクラブに行ってしまう。

 2022年末、ユズは「家が欲しい」としきりに口にするようになった。ネットカフェ暮らしはしんどいらしい。ネットカフェに使う金額は、1カ月で10万円近くになる。都内でもアパートを借りられる額だ。「アパート借りた方が安く済むのは分かってるんだけど……」と言うが、そうしない理由は自分でも分からない。先のことを考えずに過ごしているとも言えるし、日々を生きるのに精いっぱいで余裕がないとも言える。

 そんなユズが坂本さんに相談をしたのは、一緒にいたサユリの姿を見ていたからだった。

 年末年始を控え、ネットカフェで暮らすサユリは悩んでいた。年末はネットカフェが混み合って、満室で入れないことがある。(歌舞伎町で相談室を開き、NPO法人「レスキュー・ハブ」の代表を務める)坂本さんに相談すると、「アパートに入れて、就職先も紹介してくれる制度がある。やってみる?」と教えてくれた。東京都の支援制度だった。「なにそれ、やる」とサユリは言った。

 複数のプログラムがあるが、彼女が利用することにしたのは、都が用意したアパートに期間限定で住むことができ、その間に職探しや自立に向けた準備をする「TOKYOチャレンジネット」という制度だった。対象は「家がない人」で、性別や年齢は問わない。生活保護受給者は対象外だ。坂本さんのサポートを得て、新宿から電車で20分ほど行った郊外でアパート暮らしをすることになった。

 ユズはいつもサユリと一緒にいた。けんかもしたが、同じネットカフェの個室をシェアして過ごしたこともある。その相棒が歌舞伎町から急に離れることになった。自分もアパートで暮らしたいと思っていた。「私もそれ、やりたい」と坂本さんに言った。