NPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新氏の尽力で介護の仕事に就いたものの、わずか1ヶ月ほどで逃げるように離職してしまった立ちんぼの女性ユズ(26)。再びネットカフェ暮らしに戻った彼女だったが、その身には大きな変化が起きていた――。

 ここでは、毎日新聞社会部記者の春増翔太氏が歌舞伎町に集う女性の声に耳を傾けて著した『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)より一部を抜粋し、ユズのその後を紹介する。

*記事に登場する「カタカナ」表記の名前は仮名です

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望まぬ妊娠

 ユズが妊娠に気づいたのは2023年3月末だ。2カ月間、生理がなかった。友達に言われて検査薬を薬局で買い、ネットカフェのトイレで使った。すぐに陽性を示す赤い線が現れた。「げっ」。思わず声が漏れた。最初に思ったのは、「誰の子だよ……」。望んだ妊娠ではなかった。

写真はイメージ ©️AFLO

 どうしようと思い、翌日、産科があるクリニックを受診した。「妊娠12週」だと言われた。エコー写真を撮り、赤ちゃんの影を見せられた。「元気に育っていますよ」と看護師に言われたが、実感はなかった。「相手はたぶんセフレだろうな」と何となく思った。

 ユズにはセックスだけを目的にする相手がいた。何カ月か前、東京・日暮里の風俗店に勤めていたときの男性客だ。20代ということ以外は何も知らない。

「最初は客だったけど、外で会っていた。イケメンだったからタダでやってた。何の仕事をしている人かも知らない」と言う。「でも、日付がちょっと合わないんだよね」

 風俗店や路上で会った他の客の可能性はないのか聞くと、「それはないと思う」と言う。「客とはほとんどナマ(コンドームを付けないこと)でやらないし、やっても外に出してもらうから。セフレとは……ナマだったし、2月にやったときは、中(膣内)に出されたから。あー、あの時だったのかなあ」

 3月末に12週目だとすれば、妊娠1週目は1月上旬で、2月ではない。「日付がちょっと合わない」とはその意味だが、よくよく聞けば1月にもセフレの男性と会っていたという。「ゴムは付けていなかったと思うけど、中に出されたかどうかは覚えてない」

 相手は妊娠したことを知っているのか尋ねると、「一応言った」という。4月に入って、セフレから「会おうよ」と連絡が来た時にラインで「妊娠したんだ」と伝えたらしい。「おめでとう」という言葉が送られてきただけだった。「無責任じゃない?」と水を向けてみたが、別にそれでよかったという。「DNA(型鑑定)やりたいけど、そんな金ないし。どうせ結婚したいわけでもないし」

 ユズはすぐに坂本さんの相談室へ行き、妊娠の事実を告げた。