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さいとう流キャラの作り方

──先生直伝の「キャラ表」をデスクに貼っていると聞きました。

15パターンのキャラ表とさいとうが加筆した女性キャラ

宇良 「これを基準にキャラを考えて」と先生に渡されました。「丸顔で重心が下、おでこが広い」、「鼻が長い、顎が四角くてエラが張っている」とか顔のパターンが15くらいあるんです。顔のパーツのバランスを変え、骨格を変えることで、色々なキャラを生み出すことができるわけです。

 先生からは「顔のバランスを変えて描け」と口を酸っぱくして注意されました。人それぞれ特有の顔のバランスがあって、同じ癖で描いていると、全部同じ顔になってしまう。その癖を打ち破れって。ですから、デスクの目の前にこの表を貼って、いつも参考にしています。

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 表の右上のカットは、私が描いたキャラに、先生が指示を入れたもの。眉が丸く弧を描いて、下唇を厚くされた。これはゴルゴに出てくる霊能者で、最後は撃ち殺されるんですが(笑)。これも記念に貼ってあります。

ゴルゴ顔の少女

──『ゴルゴ13』のスピンオフシリーズ『Gの遺伝子 少女ファネット』の作画を担当されるようになったきっかけを教えてください。

宇良 最初は連載のエピソードの一つに過ぎなかったんです。ゴルゴでも私が女性キャラを担当するという流れが出来始めた頃で、「君、キャラデザインしてくれ」って先生に言われたんです。慌ててデザインを考えたんですが、「ゴルゴに似ている金髪の少女ってどんな顔をしてるんだろう」とかなり悩みました。

 目と眉毛の隙間がない、キッとした表情がゴルゴの特徴じゃないですか。それを女の子にしていいのかって。ゴルゴの女性キャラは殺されることが多いんです。これは死んじゃう可能性もあるな、と。脚本では「続く」となっていますが、先生がネーム(構成)の段階でストーリーを変えることも多いんです。

 ネームが上がってきたら「続く」になっていたんで、「あ、続くんだ」と思っていたら、思いがけなく読者の評判がよくて、レギュラー化したという感じです。まさか、こんなに人気が出るとは思わなかったですね。

──責任重大ですね。

宇良 私はさいとう・プロの顔をずっと真似してきて、それでマンガを覚えちゃったんで、他の漫画家さんのようなこだわりがないんです。「まつ毛描いたら、美人になんねん」と先生がおっしゃったことがあって、「あー、そうなんだって」(笑)。

──さいとう先生からのお言葉で、心に残っているものはありますか?

宇良 独特の言い回しなんですが、「年寄りになると鼻が成長する」とよくおっしゃっていました。年をとると顔に皺が出来、頬がたるむと、鼻の骨格が目立って、存在感が増すということだと思うのですが……。とにかく先生は勉強熱心で、年寄りの皺が分からないといって、老人の顔の写真集を持ってこさせたこともあります。

右がよくある赤面する表現、左が骨格に沿った表現

 漫画における表現で、キャラが照れると頬に線を入れますが、「あれはおかしい」と。頬が紅潮するなら、骨格に沿って赤みが出るはずだ、線を入れるなら、頬の骨格の線に沿って描くべきだと。よく観察されているなと、感心したことがあります。

 あと、ゴルゴも鬼平も先生は下描きをしないんです。鉛筆でアタリだけ入れたら、その上からサインペンかマジックペンでいきなり顔を描いていく。先生曰く「下描きをすると、線が生きない。表情が死ぬ」と。

──さいとう劇画の魅力についてお聞かせください。

宇良  分業制が革新的だとよく話題になりますが、実は絵がメチャクチャうまいんです。一本の線で表現できる幅が凄い。線の存在感が違う。細かい線や影を使って立体感を出す漫画家さんは多いですが、シンプルな線で魅力的なキャラを生み出すのがさいとう劇画の真骨頂です。真似しようと思っても難しいですが、なんとかその魅力を後世に伝えていきたいと思っています。

宇良尚子(うら・しょうこ)

沖縄出身。美術専門学校卒業後、2010年にさいとう・プロに入社。スタッフの中でいちばんの古株で、主に女性や子ども、動物などの作画を担当。『ゴルゴ13』のスピンオフシリーズ『Gの遺伝子 少女ファネット』では主人公の作画を手がけている。

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