2021年9月のさいとう・たかを死去後も、刊行を続ける『鬼平犯科帳』。この国民的劇画の舞台裏を紹介するシリーズ第4弾は、ネーム(構成)を担当されている漫画家のひきの・しんじさんが登場する。
ひきのさんは長年、引野真二名義で少年誌や青年誌で活躍され、代表作『ビッグウイング』(原作・矢島正雄)はテレビドラマにもなった。さいとう劇画の構成やコマ割りの極意についてお聞きした。
【マンガ】「鬼平犯科帳」を読む
装束や背景まで緻密に描く
──まず、作業の流れについて教えてください。
ひきの 脚本家によって書かれたシナリオが、さいとう・プロダクションを経由して送られてきます。それをもとに僕がネームを割る。そのネームをベースにさいとう・プロのスタッフが下書きをし、作画を進めるという流れです。
──初めて拝見しましたが、人物の表情や装束、背景まで細かく描かれていて、まるで下絵のようです……!
ひきの 一応、漫画家ですから(笑)。あまり細かく描くとかえって邪魔なんじゃないかとも思うんですが、「鬼平」はずっとこのスタイルなので、それを踏襲しています。自分のマンガのネームはもっとラフですよ。やはり自分のキャラじゃないんで、その分、丁寧に描いています。
──どれくらい時間がかかりますか?
ひきの まず、シナリオを読んで資料を探すんですが、それが結構大変なんです。地名や寺、神社……だいたいネットで調べるんですが、4、5日はかかります。その後、コマ割りとページ割りをして、ぜんぶで10日以上はかかりますね。
──「鬼平」の構成をするポイントはどこですか?
ひきの やはり見せ場である捕り物のシーンですね。そこを大きなコマで見せるには、前後を縮め、はしょらないと収まらない。その兼ね合いが難しいんです。
文章とマンガでは表現の仕方が違うんです。文章で良いと思っても、そのままコマを割っていくと、平坦になってしまう。マンガに即して書いた脚本なんですが、やはりちょっと違うんですね。
シナリオは何回か読みます。まずざっと読み、次に問題点や疑問点がないかチェックしながら読む。最後にじっくり読んで、ページ割りを考えます。
最初はページ数のことは考えないで、シナリオ通りにコマ割りをしていきます。すると、必ずオーバーする。連載1話分の41ページには絶対に収まらない。そこから、どこを引いていけばいいか考える。どちらかというと、職人的な作業なんです。
──「鬼平」のバックナンバーは参考にされますか?
ひきの メチャクチャ参考にします。全120巻を何回か通読し、どの巻にどういう場面があったかをノートに書き出しています。シナリオが届いたら、そこに出てくる場面が前回、どのように描かれていたかチェックする。登場人物でも、たまに出てくる人だと、前回どういう風に登場したか、住居はどんな風だったかを調べます。
最初はシナリオに出てくる場面や人物をその都度、全巻目を通してチェックしていたのですが、「こりゃ大変だ」というので、虎の巻をつくったわけです。そのノートを見れば、どこに何があるかがひと目で分かります。