2021年9月のさいとう・たかを死去後も、刊行を続ける『鬼平犯科帳』。この国民的劇画の舞台裏を紹介するシリーズ第5弾は、脚色を担当するシナリオライターの大原久澄さんが登場する。
大原さんはテレビドラマの脚本家出身で、『鬼平』75巻(08年刊)から脚色に参加されている。さいとう劇画のシナリオ作りの秘訣について、お聞きした。
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ゲスト主役と鬼平との「接点」を考える
──シナリオ(脚本)が完成するまでの流れについて教えてください。
大原 「鬼平」は3~4人のシナリオライターが交代で脚本を書いています。私の場合、まず編集部から「どんな話がいいか」「出してほしい脇役」などの要望を聞き、その上でプロットを提出します。A4判で4、5枚程度のストーリー仕立てのものですが、それを叩き台にして、編集者と細部を詰めていく。その後、シナリオを執筆するという流れです。
──完成したシナリオに修正が入ったりしますか?
大原 もちろん(笑)。私の癖ですが、筆が走るというか、時々プロットとは違う話になることがあります。面白ければOKですが、そうでもない時は「ここはこうでしたよね」と編集部からチェックが入り、書き直しになります。
──シナリオ作りで一番苦心される点はどこですか?
大原 まず、その回の「ゲスト主役」を誰にするかを考えます。町娘や商人、盗賊だったりするわけですが、そのキャラクターを掘り下げていく。そして、ゲスト主役が火盗改方とどう関わってくるのか……そのつなぎ目を考えるのが、難しいですね。盗賊を捕縛するという枠組みの中で、ゲスト主役に平蔵や同心たちがどうからむかが物語の肝になるわけで、毎回、苦労しています。
──「鬼平」は読み切りですから、一定の長さにまとめるのが大変そうです。
大原 最初お引き受けした時は、1回が50ページだったんです。その後、45ページに減り、いまは41ページですから、出来ることが限られて大変。展開を追うことに精一杯で、間が取れない。以前だったら、事件が解決した後、花が川に落ちて流れていくような余韻のある場面を入れることができたんですが、いまは無理ですね。個人的にはもっと江戸情緒を出したいんですが……。
──話のネタはどうやって見つけるのですか?
大原 歴史が好きなので、お城周りや旧跡巡りによく出かけます。すると、石碑や道祖神が目に入ってくる。そこから妄想が始まる(笑)。こんな人を出してみよう、と思いつくことが多いですね。
──「鬼平」の原作は参考にされていますか?
大原 不思議なご縁だと思いますが、私の師匠である下飯坂菊馬氏がテレビドラマ「鬼平犯科帳」の脚本をずっと担当していたんです。そのため、習作として池波正太郎先生の原作を脚色していました。ですから、さいとう・たかを先生のお仕事をお引き受けする前から、原作はすべて読んでいました。その経験が糧になっていますね。