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 ──「鬼平」の脚色を担当するようになったきっかけは?

大原 北大路欣也版「子連れ狼」で脚本家デビューしたんですが、その仕事が終わった後、08年に「コミック乱」編集部に原作の持ち込みに伺ったんです。ちょうどその時、「鬼平」の脚色を担当されていた久保田千太郎先生がご病気になり、「手伝ってくれないか」ということになったんです。

その頃には池波先生の原作もストックが尽き、オリジナルで原案作りから始める必要がありました。ところが、最初のシナリオを書き上げた直後、久保田先生が急死されて……。そこからは怒濤の日々で、気づいたら「鬼平」の脚色担当になっていました。

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 その後、ずっと一人でやっていたんですが、テレビの仕事が入ったりして、回らなくなったんです。そこで、99巻(16年刊)から旧知の守山カオリさんに手伝ってもらうようになり、現体制に至るわけです。

 ──ドラマと漫画で脚本作りの違いはありますか?

大原 一番の違いは、漫画の脚本はそのまま文字になること。状況や背景を解説しなければならない場合、地の文で説明すると、文字が並んで読む方も辛いと思うんです。ですから、登場人物のセリフに割って、役割を負わせます。ドラマの場合、ナレーションすればすむのですが……。

 あと、池波原作では、連絡(つなぎ)や盗(つと)めなど独特の用語があります。そこはすごく意識しますね。やはり原作のファンの方もいますから。

 ──「鬼平」は同心や密偵など準レギュラーもたくさんいるから大変ですね。

大原 私の場合、同心である忠吾の出番が多い。殺伐とした話のときは、笑いの要素を入れたくなる。忠吾はいい道化役なんで、出したくなるんです。

ト書きには丁寧な説明をつけるよう心掛けている

時代考証に厳しい時代劇ファン

 ──編集部から注文などは入りますか?

大原 一番多いのは、リアリティの部分ですね。時代劇ファンは時代考証に厳しいんです。上野山で花見をするシーンを書いたことがあったんですが、あそこは徳川将軍家の菩提寺である寛永寺の境内ですから、一般人は立ち入り禁止だったんです。そこに気づいた読者の方から編集部にお叱りのお手紙が届きました。外側から桜を見るだけだったらいいんじゃないか、と思ったんですが……。

 ──装束の指定などもされるんですか?

大原 そうです。 同心は公務では黒羽織が制服ですが、お忍びの捜査では私服なんです。そのように書き添えたはずなんですが、作画担当の方に伝わっていなくて……。結局、単行本で直してもらったことがありました。

 ──殺陣の指示などもされるんですか?

大原 平蔵が刀を振り上げて、相手が受けるとか、その程度は書きます。ドラマの時代劇では殺陣師がいるので、刀を抜いたら後はおまかせなんです。漫画もそれでいいのかと思ったら「細かく書いてください」と注文があって。それからは、ちゃんと指定しています。

理想の男性は「無用ノ介」

 ──さいとう先生と面識は?

大原 新年会や忘年会では、よくお会いしていました。初対面のとき、私が最初に書いたシナリオをすごく褒めてくださった。女性を主役にした話だったんですが、「あんたの書く女はオモロイ」って(笑)。ずっと久保田先生でしたから、男目線ではない部分が気に入ったのかもしれません。本当に人格者で、お優しい先生でした。

 ──さいとう劇画の魅力とは?

大原 私は子どものとき、「無用ノ介」と「カムイ」が理想の男性だったんです。特に「無用ノ介」が大好きで、「ゴルゴ13」とは違って、時代劇だとさいとう先生は洒脱な感じがありますね。キャラに愛嬌がある。そこが魅力だと思います。

 ──今後の抱負を聞かせてください。

大原 いまは時代劇テイストの作品ばかりで、本格時代劇をやる方が少ない。「鬼平」のような本物の時代劇を受け継いでいきたいですね。

 池波作品の一番の魅力は、「人間のなかには善も悪もある」というところ。たんなる勧善懲悪ではない部分を大切にして、今後も書いていきたいと思います。

 

おおはら・くすみ

新潟出身。2002年、テレビドラマ「子連れ狼」で脚本家デビュー。他に「大岡越前」シリーズ、「水戸黄門」シリーズ、「逃亡者おりん2」など数多くの時代劇の脚本を執筆。2008年より『鬼平犯科帳』の脚色を担当。

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