警備員の仕事がダメなら建設の仕事はどうだろうか。今日も夜になれば手配師の京太郎が来るだろう。
「この辺は手配師がウジャウジャいるのでいつでも飯場に入れますよ」
「そらあ昔はやってたこともあるけどよ、俺はヘルニアで腰やってるからガードマンしかできねえんだ。今あれ狙ってるんだよ。漫画喫“ちゃ”の清掃員。お前、入社したら5万円祝い金が出るんだぞ。それ持ってドロンすれば最高じゃねえか」
寅さんは涅槃仏のように寝転がりながらそんなことを言う。
「ドロンしないで働き続けたほうが絶対得しますって」
「バカ、今までずっとそういう人生なんだよ。お前さんに一つお願いがあるんだけどよ、大家に電話がしたいからよ、俺に500円ばかり恵んでくれねえか。そしたらジュースの1本くらいは奢ってやるからよ」
ジュースはいらないので貸すのは400円にしてもらいたい。どうせ返ってこないだろう。
家があるのにホームレスになった理由
「家があるのになんでこんなところで寝てるんですか?」
2カ月前から生活保護を受け始め、青梅のアパートに住んでいるという。しかし、馴染みのある上野に来て、ホテル、サウナ、DVD鑑賞、パチンコ、酒と贅沢三昧をしていたらアパートの家賃が払えなくなってしまった。残金5000円をパチンコで5万7000円の家賃に増やそうとするも、青梅に帰る電車賃すらなくなってしまったというわけだ。
しかし、金はなくなってしまったが、「その数日間だけは最高の気分だった」と寅さんは笑う。絵に描いたようなダメ人間すぎてもはや愛嬌すらある。
「お前さんよ、生活保護なんか言っても家賃を払ったら残りは6万8000円しかないんだよ。その金で1カ月も暮らせると思うか?」
「そんなの余裕ですよ」
私がタバコと酒を一切やらないからかもしれないが、月に6万8000円もあれば余裕である。ただ、一生それで暮らせと言われたら気が滅入る。途中でヤケになってギャンブルで金を増やそうなどと考えてしまうかもしれない。しかし、寅さんが青梅のアパートに帰らずに上野で豪遊した理由はほかにもあった。
「青梅にはもう帰りたくねえだよ。チンピラみたいなとなりの住人が俺から金を巻き上げようとするからよ。人の金取って、飯代出させて、挙句にそんな金知らねえって暴れ出すような奴だからよ。住んでいるのが全員金に困った生活保護なんだからよ、トラブルが起きるのは当たり前だろうよ。だからもう帰らねえ、このまま生活保護を打ち切りにしてもらいてえんだ」
夜になるとボランティア団体がカレーを配りに来た。私はお腹が空いていたので全部食べたが、寅さんは「なんでカレーが酸っぺえんだよ。こんなの食えるかよ」と言って捨ててしまった。
「なんやオラあ! このお!」