実際、寿命も延びています。厚生労働省のまとめによると、2022年の日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳です。いずれも前年を下回りましたが、依然として世界的には高水準にあります。
つい200年ほど前である江戸後期の、岐阜県のある山村の平均寿命を調べた調査では、男女いずれも30歳にも到達しませんでした。当時は乳幼児の死亡率が非常に高かったとはいえ、寿命の延びは目を見張るものがあります。
人間の体は生物学的には120歳くらいまで生きられるとの仮説があります。最近では、いや150歳までいけるという論文も出ました。
環境の改善や医学の進歩により、人間の寿命はこのマックスに向かって延びています。ただ、老化は起こります。
寿命の10年前後から体が不自由になってくる
ところが、今、人間は科学の力を使って、老化を止めて、あわよくば不老不死になろうとしています。これをどのように捉(とら)えるかは、人類のこれからを考える上で非常に重要な問題です。
例えば、延命治療の問題があります。自然に逆らうのは良くないという考えは存在します。その究極は医療の拒否になります。
この問いに答えはありません。
私は個人的には不死になることは望みませんが、死を単に先延ばしにするだけではなく、生きている間、元気でいたいと思うのは間違っていないと思っています。
老化の特徴は、死にやすくなることです。人間の場合は死ななくても老化すると「有病率」、つまり病気にかかっている割合が高くなります。病気が悪化すれば、寝たきりになって介護が必要になります。
例えば、日本の場合、厚生労働省は健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる健康寿命を算出しています。最新の2019年の統計では男性72.68歳、女性75.38歳です。
一方、2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です。つまり、男女を問わず晩年の10年前後は不健康な生活を送っています。