肥満症の治療に新しい技術が導入された。そう聞くと、「太っているだけなのに“治療”を受けなければならないのか――と驚く人もいるかもしれない。

 今回のテーマは「肥満症」で、「肥満」とは異なる。その違いは明解で、前者は「病気」で後者は「現象」――。そのあたりのことを、国内の減量手術の症例数で首位の四谷メディカルキューブ(東京・千代田区)減量・糖尿病外科センター長・笠間和典医師に解説してもらう。

BMIが25を超えると“肥満”だが、それだけでは…

「肥満は医学的にはBMI(ボディマス指数)によって判定されます。BMIが25を超えると“肥満”と呼びますが、それだけでは病気の扱いにはなりません。

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 BMIが25以上で、さらに何らかの疾患を合併している人を“肥満症”と呼び、『治療が必要』と判断されるのです。ちなみにBMIが25を超える人の数は、国内でおよそ3000万人と推定されています」

(写真はイメージ)©AFLO

肥満は身体によくないというけど、実際、どう悪いの?

「肥満に合併する疾患」とはどんなものがあるのだろう。

 高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪肝(NASH)、高尿酸血症、冠動脈疾患、脳血管疾患、月経異常、不妊、変形膝関節症、腰痛など広範囲に及ぶ。

 おそらくBMIが25を超える人を詳細に検査すれば、この中の一つや二つは見つかるだろう。その意味では「肥満≒肥満症」くらいのことは言っても、あながち間違いではないのかもしれない。

 肥満症と診断されたら、どうすればいいのか。

 従来は食事指導や運動療法などが中心だったが、2000年代初頭から日本でも「減量外科」という診療科を標榜する医療機関が出てきた。笠間医師はまさにその先駆け的存在なのだが、具体的にどんな外科治療が用意されているのかを聞いた。

笠間和典先生

肥満症を「手術」で治そうとすると…

「外科治療(手術)としては、

1、胃を小さく切り離してそこに小腸をつなぐことで、食べたものが胃の大半を通らないようにして、かつ栄養吸収もコントロールする『ルーワイ胃バイパス術』

2、胃は残しながらもその大部分を切除することで胃そのものをスリーブ(袖)のように細くする『スリーブ状胃切除術』

3、2のスリーブ状胃切除術と1の胃バイパス術をくみあわせた発展形として、重度の糖尿病が改善するように工夫した『スリーブバイパス術』

4、胃の入り口にバンドを設置して食べたものの胃に入る量を調整する『胃バンディング術』

 など、様々な術式が開発されてきました。いずれも減量効果は高く、日本で健康保険適用の対象になった術式もあれば、現在“先進医療”として行われている術式もある。外科による減量治療の進歩は目覚ましいものがあります」(笠間医師、以下同)