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 人材会社が最近グループを挙げて隙間時間向けのバイト紹介サービスに名乗りを上げる動機のひとつのは、一度働き始めた高校生・大学生は、本人が登録解除して情報を抹消しない限り(退会・オプトアウト)、ずっとその人材グループ企業の就職サイト、転職サイトを使い続けてくれる可能性が高まるからです。

 いろんな意味で青田刈り、囲い込みをやるためのイケスとしての側面がある一方、前述の通りアルバイトでもちゃんと働いてくれる、使える子が人手不足の昨今超絶に求められていることの証左でもあります。そういう子が、たとえ学歴的に乏しくても欲しいという業界は多いでしょうし、グループ企業を通じてピンポイントで割り増しでも欲しいという企業があって応じるようならば人材会社もマージンが取れます。

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今後、監視社会の一歩手前の問題が起きる可能性も

 この問題を労働法制の人たちと議論をすると、まるで技術を駆使した人身売買の発展形みたいだ、と形容する先生方もおられます。ただ、現段階ではどこまでも合法で、うまくいった人たち、働く人、ホワイトであろうと願う経営者や使える人にはちゃんと給料を払いたいと思っている企業にとっては幸せになる技術です。それは良かったね、と思います。

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 問題は、そういう選別から外れるであろう、マジョリティの、大多数の労働者たちです。

 少なくとも日々「働きたくないでござる」と考え、休日は自己研鑽なんてとんでもない、ゆっくり夕方まで寝ていたい、月曜に働きに出ることを思うと日曜の午後から気が滅入る、ああ会社ごと爆発して欲しい、そして働かず給料だけ欲しいと願う人々にとって、ずっと監視され働かされる世界というのは実にコルホーズでありソ連な感じもする、一歩間違えば農奴制じゃないのかとすら感じる、ディストピア以外の何物でもありません。いわば、いまは適法だし誰も悪くないけれど、もう少し話が進んでいくと中国のゴマ信用による監視社会の一歩手前の問題が起きる可能性は否定できません。

「使える」「使えない」で人を判断するのはもう少し考えるべき

 また、技術の進展によって、使えない人にとっての「冬の時代」到来は厄介ですが、学生時代はぐうたらでも、仕方なく就職した先で仕事の面白さに目覚めて立派な企業戦士になることだってあり得ます。スコアリング社会の最大の問題点は「人間は成長したり、面白さに気づいて途中から能動的に働き始めることがある」という変化をうまくすくい上げられない点にあるのです。

 運命的に相性の合う上司と出会って技術やスキルを叩き込まれて一人前になっていくこともある中で、いま、その時点での「使える」「使えない」で人を判断することの恐ろしさってのはもう少し考えるべきだと思います。

 そういうのも「いや、行動遺伝学的にその人の性格が把握できればそういう可能性があるのかないのかも分かるんですよ」と反論されそうな気もしますが、現在ではもっぱら生成AIが人間の仕事を奪うという文脈で語られることの多い世界で、少しでも若い人たちが夢を持って働いていける環境を作ることがおっさんの使命なのではないかと最近強く感じることが多くなってきました。

 そういう若い人たちにとって、お前らおっさんが邪魔なんだ、どけと言われることもあるかもしれませんが。