江戸時代に隆盛を極め、明治時代には禁じられた絢爛たる文化、春画。その知られざる実像を、あらゆる角度から、また多くの証言とともに綴ったドキュメンタリー映画『春の画(え) SHUNGA』がまもなく公開される。これに先んじて、姉妹作ともいえる劇映画『春画先生』はすでに10月から上映中。そして、この2本の公開記念として、作中に登場する春画ほか約50点を展示した「銀座の小さな春画展」も開催中だ(ギャラリーアートハウスにて12月17日まで)。

 これら一連のプロジェクトの仕掛け人が、プロデューサーの小室直子さんだという。そういえば、本作の監督は平田潤子さん、もう1人のプロデューサーは橋本佳子さん。その他のスタッフ、出演者にも女性が多い印象だ。

小室直子さん

「女性のほうが男性よりもフラットに、先入観なく、春画を楽しんでいる気がしますね」

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 ことさら性差を語るのはナンセンスですが、という注釈付きで小室さん。初めて春画と出会った時のことから振り返ってもらった。2015年、東京・永青文庫で催された日本初の春画展を見に行った。

「当時、私は日活で“ロマンポルノ・リブート・プロジェクト”に携わっていて、先人たちの性愛の表現は? という関心で足を運んだんです。正直、ぶっ飛びましたね。豪華で、繊細で、ユーモラスで。いろいろな意味で想像以上でした。こんなすごいものを、なぜこれまで知らずにいたんだろうと。もうひとつ驚いたのは、世代を問わない女性客の多さです。その雰囲気がとても明るくて健全で……いつか、こんなふうに観ていただける映画を作りたい。そう思いました」

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会
「袖の巻」鳥居清長・画(浦上蒼穹堂)

 それから企画を温めること数年。まず実現したのが、塩田明彦監督による『春画先生』だった。小室さんいわく、「こちらは、いわば劇場版春画。それぞれの感性で、自由にご覧いただけたら」。一方、『春の画 SHUNGA』のほうは、「使命感に駆り立てられて作ることになってしまった」という。

「春画は秘め事を描いたものですから、公衆の面前に大っぴらに掲示する必要はないでしょう。でも、まるで“なかったこと”のような扱いをされていいものでは決してない。ここにどれだけの技術、歴史が集約されているか――。劇映画の製作を進めていく中で、それがいまだに、いかに知られていないかを、再び思い知りました。それに、春画にスポットライトを当てることで、間違いなく、日本の美術・文化史にあいた大きなミッシングリンクも埋まる。本作にご協力くださった専門家の皆さんもそうおっしゃっています」

 エロティックで文化的、かつ明るく朗らかな気持ちになれる春画映画が登場した。

こむろなおこ/カルチュア・エンタテインメント株式会社「カルチュア・パブリッシャーズ」所属。京都国際学生映画祭の事務局運営に携わり、日活を経て2018年より現職。主なプロデュース作品に、『海を駆ける』(18/深田晃司監督)、『あちらにいる鬼』(22/廣木隆一監督)、『658km、陽子の旅』(23/熊切和嘉監督)、『春画先生』(23/塩田明彦監督)など。

INFORMATION

映画『春の画 SHUNGA』
(11月24日公開)
https://www.culture-pub.jp/harunoe/