元オフコースの鈴木康博さん。脱退して41年。ソロで精力的に音楽活動を続けている。2000年以降はメジャーレーベルから離れ、CDを自主制作しながら、独自のライブ活動を行ってきた。
インディーズとなって出したCDは17枚。以前は、作詞は苦手で、人に頼むこともあったが、現在は、作詞、作曲、アレンジ、CD制作、すべて1人でこなしている。
オフコース時代からのギターの巧さや音楽的才能は健在。現在では、その等身大の歌詞が胸に響き、魅力的である。
「詞は自分と向き合うなかから生まれます。書いている時だけ本当の自分になれる気がしています。自分は奥手だったなと思いますね(笑)」
10月18日に発売された『ダブルネックイヤーズ』は、自ら立ち上げた「ダブルネックレコーズ」で制作したアルバムの中から5タイトルを厳選した6枚組CD-BOXで、60歳を迎えるまでの折々の想いが詰め込まれている。
自宅にささやかなプライベートスタジオを整えて制作した『Reborn』の収録曲「挽歌」は、「オレはここからスタートしたんだと改めて思いました」という一曲。「自分が生きる世の中を咀嚼できず食傷気味だよ」という意味で名付けたアルバムタイトル『ダレか胃薬クレ。』。還暦を目前に作った『いいことあるさ』。その中の「海辺にたたずんで」はライブでもよく歌われる。
♪頑張らなくてもいい ただ楽はするな ため息はつくなと 夢が僕に言う♪
08年6月に行った還暦アニバーサリーライブ盤は2枚組。31曲中17曲がオフコース時代の楽曲で60歳前の鈴木さんの総集編といえる。
現在、土・日はほぼライブ活動だ。11月中旬からの1カ月でも、甲府、川口(埼玉)、高松、松山、北九州……。
今年75歳。ジーンズ姿で、ギターを手にすっと立ったまま歌う姿は、驚くほど若々しい。なぜここまで精力的に頑張れるのかと思うが、音楽は、鈴木さんにとって空気であり、日常なんだと感じる。常に歌っているほうが喉の調子も良く、体にも合っていると話す。ギターも必ず毎日、弦に触れる。そうやってCDを作ってはライブ会場へ、そんな日々を鈴木さんは「実演販売ですよ」と笑う。
「音楽を続けられるかと自分に問いかけて、それでもやっていこうと腹を決めた。そんな僕が作る歌を好きだと皆さんが言ってくれて――」
会場には、かつてのオフコースファンだけでなく、若い世代も来ている。トークは、日々感じることから思い出話まで、驚くほど饒舌で楽しい。
「同世代の人がずっとついてきてくれている。それが嬉しい。同じ時代を、同じようなことを感じながら生きているんだと、すごく感じます」
21年に発売したアルバム『十里の九里』のジャケットは、鈴木さんが砂漠を歩いている後ろ姿の写真だ。
「僕がやっていることは、先には何も見えない。振り返って、ようやく自分の足跡に気づく。自分の存在が何なのか、初めてわかるんです」
すずきやすひろ/1948年、静岡県生まれ。大学在学中に小田和正らとオフコースを結成し、70年にシングル「群衆の中で」でデビュー。72年から活動が本格化しコンサート動員数、レコードセールス等、音楽史に大きな足跡を残す。82年、オフコースを離れ翌年ソロデビュー。現在、「LIVE 2023~十里の九里・シーズンⅡ」で全国ツアー中。
INFORMATION
6枚組CD-BOX『ダブルネックイヤーズ』
http://suzukiyasuhiro.jp/news/8899