2017年6月3日午後3時30分、アメリカ、ジョージア州オーガスタ。買い物を終えて帰宅したリアリティは、家の前で見知らぬ男性2人に声をかけられる。捜索令状を携えFBI捜査官だと名乗る彼らは、ある事件の捜査のために彼女から話を聞きたいという。戸惑い、「心当たりがない」と応じるリアリティだったが、緊迫した会話の応酬の果て、衝撃の事実を告白する。それは、前年に行われた大統領選へのロシアの介入疑惑に関する機密文書を、ある意思をもってメディアにリークしたというものだった――。

 そうして彼女は、トランプ政権最大のリーク事件の当事者として、国家機密漏洩の罪で逮捕される。冒頭のシーンから当局に連行されるまで、約80分間にわたる尋問の一部始終を“完全再現”したのが本作『リアリティ』である。監督・脚本を手掛けたのは、これが初の長編映画作となるティナ・サッターさんだ。実は劇作家としても活動しているサッターさん。同じ題材による舞台を2019年に上演して、高い評価を得ている。

ティナ・サッターさん

「もともと、映画にも挑戦してみたいと思っていたので、本作は、まさにふさわしい内容だと、すぐに映像化を決意しました。グローバルなテーマの心理スリラーでありながら、一人の若い女性の成長の物語でもある。その両面性に魅力を感じたんです」

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 FBIが録音していた音声の書き起こしを、一言一句、そのままセリフとして使用しているのも本作の大きな特徴だ。だからこその圧倒的な“リアリティ”が画面に横溢する。

「さらに映画では舞台ではしえないこと――ディテールの表現にこだわりました。たとえば、彼女が乗っていた車、住んでいた家、部屋、シーツの模様、卓上のメモまで。そういうものをつぶさにうつすことで、より立体的にリアリティという女性を描き出したかった」

 のちに“第2のスノーデン”などと呼ばれるようになったリアリティ・ウィナー(実名)は、当時25歳、国家安全保障局の契約社員だった。元軍属で自宅に銃を所持している一方、ヨガのインストラクターでもあり、気候変動に大きな関心を抱き、動物の保護活動にも情熱を注いでいた。

「なんて複雑で興味深い人なんだろうと思ったんです。そんな彼女が、当時、何の証拠も出ないまま、毎日不毛なディスカッションが続いていた例の問題に一石を投じた。そして、愛するペットたちと暮らす家で、デニムの短パンというラフな格好のまま国家権力と対峙し、逮捕された。その事実を知った時、これはすごいことだなと感じました。そして、ちょうど2015~17年頃は、アメリカ人として自国の歴史が大きく変わってきている、そのうねりを強く感じていた時期。この事件の作品化は、ある種、歴史的な瞬間を切り取ることで、独特だったあの時代の、水面下にあったものを掘り下げることにもなっていると思います」

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 リアリティを演じるのは、ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』でブレイクを果たした人気若手俳優シドニー・スウィーニーさん。動き自体は少なく基本は会話劇なので、次第に追い詰められていく彼女の表情を、じっと見守る映画でもある。主演抜擢の決め手は、当時のリアリティと共通する年齢、近しい生まれ育ちなど。サッター監督いわく、説得力ある演技は「心身の内側からくるものだから」。

 実は、その内面を表現するものとして、ある日本アニメのキャラクターが象徴的に使われている。『風の谷のナウシカ』のヒロイン・ナウシカだ。

「リアリティが好きな作品として調べていくうちに、ナウシカの人間性は彼女と深く呼応していると気づいたんです。それで密かなメッセージとして埋め込みました。注目してもらえたらうれしいですね」

Tina Satter/ニューヨークを拠点に活動する演劇・映画の脚本家・演出家。ジェンダー、フェミニズム、スポーツ、音楽など幅広いテーマの作品を発表し、数々の演劇賞を受賞。2019年秋にオフ・ブロードウェイで上演し、絶賛された舞台『Is This A Room』を映画化した本作で長編映画監督デビュー。

INFORMATION

映画『リアリティ』
(11月18日公開)
https://transformer.co.jp/m/reality/