普段は離れて暮らす父カラムと、二人きりで夏休みを過ごした11歳のソフィ。あの夏、父は何を思いどんなふうに自分を見つめていたのか。かつての父と同じ31歳になったソフィは、ビデオカメラで撮影された映像の断片から懐かしい記憶を振り返る。
1990年代夏、光にあふれたトルコのリゾート地を舞台に親子の絆を繊細な視線で描いた『aftersun/アフターサン』が今世界中で大きな注目を集めている。昨年のカンヌ国際映画祭で上映されたのち、各国の映画祭で映画賞を受賞。父カラム役を演じたポール・メスカルはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。監督は、これが初長編となるスコットランド出身のシャーロット・ウェルズ。自身の個人的な記憶から、瑞々しさと刹那に満ちた娘と父の物語をつくりあげた。
私はこの映画を「感情的な自伝」と呼んでいます
――小さな娘と父親との絆を描いた映画はこれまでにも色々あったと思いますが、本作は他の作品とはまったく違うユニークな視線で二人を見つめた映画ですね。本作をつくるうえで何か意識した映画はありましたか?
ウェルズ この話を思いついた頃から、娘と父、それに似た大人と子供の関係を描いた映画を数多く見ました。ソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』(10)、ヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』(73)、ピーター・ボグダノヴィッチの『ペーパー・ムーン』(73)、セリーヌ・シアマの『トムボーイ』(11)。
脚本を書き始めてからは、もう少し違う視点で作品を探すようになり、夏の雰囲気や記憶をテーマにしたビクトル・エリセの『エル・スール』(83)やアルゼンチンのアグスティナ・コメディが撮ったドキュメンタリー『Silence Is a Falling Body』(17、未公開)などを見ました。
ただこれらの多くは娘と父が絆を築いていく過程を描いていますね。本作は私の個人的な記憶がもとに、すでにある絆について描いた作品です。
――つまりこれは監督の自伝的作品と考えてよいのでしょうか?