1951年にフィンランドで誕生したデザインブランド「マリメッコ」。その色鮮やかで大胆なデザインは世界中で大人気となり、今や北欧を代表するブランドだ。
中でもよく知られるのは、「ウニッコ」を始め創業初期から同社のデザイナーとして活躍したマイヤ・イソラの作品群。フィンランド出身のレーナ・キルペライネンが監督したドキュメンタリー『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』は、この伝説的デザイナーにして画家のマイヤが残した作品や文章を基に彼女の知られざる人生を紐解く。
「私の母がマイヤのデザインを大好きで、子供時代過ごした家には彼女の手がけたカーテンがかけてありました。母の死後、遺品を整理していた頃マイヤの作品を集めた一冊の本と出会ったんです。そこには彼女の人生とアートの全てが詰まっていて、これは絶対に映画になると思いました」
マリメッコに500点以上のデザインを提供した重要なデザイナーだったが、実はフィンランドでも彼女の名前はさほど知られていないという。
「デザイナーとしてだけでなく画家として多くの絵画作品を発表していたことを知る人はさらに少ないでしょう。マイヤは、マリメッコにおいて自分はあくまで裏方の存在だと考えていて、取材もほとんど受けていなかったようです。だからこそ、彼女の埋もれた声を掘り起こしその存在にもう一度命を吹き込みたかった」
映画で描かれるマイヤの人生は劇的だ。19歳で娘を産んだ後、世界各地を旅しながら独創的な作品を次々に発表。その間3度の結婚と離婚を経験した。波乱に満ちた彼女の歩みに光を当てるうち、マリメッコの創業者アルミ・ラティアとの愛憎関係や、離れて暮らした娘クリスティーナとの親子関係など、彼女と共に生きた女性たちの物語が同時に浮かび上がる。
「たしかに女性たちの話が主軸になっていますよね。もちろんその人生には元夫を含め多くの男性たちが関係しましたが、彼らがマイヤに与えた影響は決して良いものではなかったし、わざわざ彼らに場所を与えなくてもいいだろうと考えたんです。とはいえ、マイヤと彼らの関係はコインの両面のようなものでもあります。男たちは彼女を利用し、彼女もまた彼らを利用していた。恋愛によって得たエネルギーをその都度制作に向けていたわけですから」
映画が公開されると地元でも大きな反響があったという。
「彼女の様々な側面を知ることができたと多くの人が喜んでくれました。戦後すぐ、まだフィンランドが閉鎖的だった時代に若くしてヨーロッパ中を旅してまわった勇敢さに驚いた人もいましたし、多くの時間を別々に過ごした娘さんとの関係性に注目した人もいたようです。ある女性の観客は、映画の持つフェミニズムの側面に強く力づけられたと話してくれました。マイヤが自分の力で人生を切り開いていったことに強く感動したそうです。マイヤの人生は本当に複雑なレイヤーによって成されていたんですね」
Leena Kilpeläinen/モスクワの映画学校を卒業後、監督、撮影監督、脚本家として活躍。2013年にドキュメンタリー『ソクーロフの声』(日本未公開)を発表。本作は2作目の長編ドキュメンタリーとなる。
INFORMATION
映画『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』(3月3日公開)
https://maija-isola.kinologue.com/