ウェルズ ソフィ役のフランキー・コリオはこれが初めての演技経験だったので、彼女を中心にすべてのやりとりを計画していきました。現場では、彼女がなるべく自由に演技ができるよう、脚本全体を渡さずに、次に演じる場面のセリフだけをその場で渡すようにしました。脚本を完璧に覚えてセリフを機械的に言うのではなくて、その瞬間瞬間を大切にするようにしたかったので。
カラム役のポール・メスカルはすでにキャリアのある俳優ですから、フランキーの場合とは真逆のアプローチになりました。現場に入る前に、ポールは脚本を何度も読み返し、質問があればその都度私とやりとりを重ねていきました。
現場においては、二人がどのように絆を築いてくれるか、どういう親子関係をつくりだし、それをどうカメラにおさめるかに集中しました。あとはちょっと暗いストーリーでもあるので、逆に演技のほうは軽やかなトーンで演じてもらうよう意識していました。
――カラムが20年前にどういう思いを抱えどんな状況にあったのか、私たちは断片的な出来事や言葉から想像するしかありませんが、ポール・メスカルさん自身には、カラムの背景についてどのくらい詳細に伝えていたんでしょうか?
ウェルズ ポールには、私なりのカラムという人物に対する解釈を事前に伝えてありました。でもおもしろいのはポールがこう言っていたことです。「彼はきっと自分でも何が問題か理解していないんだと思う」。カラムは自身の苦しみの原因を理解できず、だからこそ色んなことを試してはそれを乗り越えようと苦労していた。そうポールは解釈し、ちょっとした表情や動作によって見事にカラムという複雑な人物を表現してくれました。
――最後に、今後の予定について教えてください。
ウェルズ 今はまだ次回作の予定はありませんが、あまりにも長い年月をこの作品に費やしてきたので、一旦ここで区切りをつけて、新しいアイディアに向けて踏み出したいと思っています。なるべく早く次作に取り掛かりたいですね。といいながら、また8年くらいかかってしまうかもしれませんが(笑)。
Charlotte Wells/1987年、スコットランド生まれ。短編の製作後『aftersun/アフターサン』(22)で長編映画デビュー。本作は英国アカデミー賞英国新人賞他各国で映画賞を受賞、主演のポール・メスカルはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。