「僕は良い映画を作りたいだけ。純粋に楽しい映画であれ、社会に問題提起をする知的な映画であれ、他人の人生の2時間を無駄にさせないようなものを作っていきたい」

 ハリウッドデビューを果たした20代の頃から演技力を高く評価されてきた、コリン・ファレル。今、彼は、46歳にして賞レースのフロントランナーに躍り出ている。主演作『イニシェリン島の精霊』でヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞したほか、多くの主要な映画賞に候補入り。本作を監督したマーティン・マクドナーは、長編映画監督デビュー作『ヒットマンズ・レクイエム』で組んだファレルとブレンダン・グリーソンを最初からイメージしつつ、本作の脚本を書いた。

コリン・ファレルさん

 マクドナーやグリーソンとの間には絶大な信頼関係があると、ファレルは言う。

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「『ヒットマンズ~』でも、今作でも、3週間のリハーサルがあった。3週間も何をするのかと、最初は思ったよ。だけど、やり始めるとどんどん質問が出てくるんだ。そうやって僕らはキャラクターとストーリーを模索していったのさ。僕らはお互いを信頼しているから、失敗するのが怖くない。失敗を恐れたら、制限がかかる。僕とブレンダンの仕事は、ストーリーのために最高のことをやること。言葉には出さなくても、僕らには同じ目的があった」

 アイルランドの孤島に暮らすパードリック(ファレル)は、1923年のある日、長年の友人コルム(グリーソン)から突然避けられ始める。「もう君の友達はやめる」とはっきり言われても納得がいかず、パードリックはコルムを追いかけ回すが、状況はますます悪化していき、唯一の家族である妹と、可愛がってきたロバのジェニーと孤独な日々を送ることに。本作に温かさを与えてくれるのが、ジェニーだ。

「ジェニーは、映画でとても重要な存在。映画に強い感情を与えてくれる。ジェニーはパードリックを、彼の退屈な日常から救うんだ。馬や犬と共演したことはあったけれど、ロバは初めて。撮影現場でジェニーはみんなから愛されていたよ。動物は正直で、そこがすばらしい。だが、ジェニーが緊張してしまって、撮影がストップするということもたびたびあった。そんな時も、みんなすごく辛抱強かったよ」

 昨年は、主演作『アフター・ヤン』でも評価された。カンヌとサンダンスで上映されたこの映画は、詩的かつ哲学的な、奥深い作品だ。さらに、『THE BATMAN―ザ・バットマン―』にも、登場時間こそ短いが重要な役で出演。フィルムノワールと呼ぶべきこの映画も、批評家から絶賛されている。娯楽大作と芸術的なインディーズ映画、両方をバランスよくこなしてきているのも、ファレルのキャリアのすごいところだ。

「自分のレガシーなんて考えないよ。この間も、わが子から『100年もしたらパパのやったことなんて誰も覚えていないよ』と言われたしね(笑)。そんなものさ」

Colin Farrell/1976年アイルランド生まれ。2000年、『タイガーランド』でハリウッドデビュー。『アレキサンダー』『マイアミ・バイス』『トータル・リコール』『ロブスター』など出演作多数。元交際相手ふたりとの間にふたりの息子を持つ。

INFORMATION

映画『イニシェリン島の精霊』
1月27日公開
https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin