単身中国に渡りドニー・イェン、アンソニー・ウォンら一線級のアクションスターと渡り合ってきた“逆輸入俳優”木幡竜。本場で培ったアクションで話題の彼が初主演を務めた映画『生きててよかった』が公開中だ。

 闘うべきリングを奪われたボクサーの凄絶な姿を描く本作。かつてプロボクサーとして名門・大橋ボクシングジムで将来を嘱望されながら24歳で引退、俳優の道に進んだ経験を持つ木幡はプロットの段階から携わった。

「僕が辞めた時も、大橋さん(大橋ジムの大橋秀行会長)に『お前は絶対に戻ってくる』と言われましたが、ボクサーは引退後のセカンドキャリアで、社会に適応できずに躓くケースが本当に多い。だから3カ月くらいでジムに戻ってきてしまう。じゃあ彼らにとって幸せってなんだろう、と。リングの中でしか生きられなかった人間を描いてみたい、というのが出発点でした」

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木幡竜さん

 主人公であるボクサー楠木創太はドクターストップにより引退へ追い込まれる。リングに未練を残しつつ幼馴染の幸子(鎌滝恵利)と結婚し、工事現場で働き始めて傍から見れば幸福な日々を過ごしている。しかし漫然と過ぎていく日々の中で次第に闘争本能を抑えきれなくなり、とあることがきっかけで地下格闘技に身を投じていく。木幡は悶々とする日常と臨場感に満ちたアクションのコントラストを見事に演じ切った。特に冒頭のボクシングシーンは圧巻だ。楠木がボクサー生命を断たれるKOの場面では木幡の希望で実際に顎を打ち抜かれて失神するという壮絶な撮影が行われた。

「芝居ではできない、死んだ目、生気を失った目を見せたかったんです。最初にそのシーンがあれば、あとに続くアクションがより“生っぽく”なる。もちろん最初は止められました。ケガはもちろん、死ぬ可能性もゼロではない。だから撮影の前に一筆書きました。『事故があっても映画は絶対に公開してくれ』と」

 相手役を務めたのは元東洋太平洋スーパーフライ級王者の松本亮選手。木幡にとって大橋ジムの後輩にあたり、バリバリのトップランカーだ。

「動きながらピンポイントでパンチを入れるのはプロにしかできない技術です。だから大橋ジムに行って、松本くんに『ガチで入れてほしい』とお願いしました。ただアクション監督の園村健介くんに誤算があって、KOシーン以外はパンチを当てない想定でしたが、ボクサーは本能的に顔面があるところを殴ってしまう。普段、空振りする練習なんてしないですから。だからKOシーン以外にも結構パンチが当たっています(笑)」

 日本のアクション映画の常識を揺るがすKOシーン。使用されたのは、なんと2テイク目だった。

「(1回目は)見事に顎をスコーンと打ち抜かれて気を失ったんですけど、それがNG。2回は絶対に無理、と言っていたんですけど(笑)、仕方なくもう一度喰らって、また気を失って……。次は叫んだり、暴れたりしない、オシャレな映画に出たいですね」

こはたりゅう/1976年生まれ。横浜高校ボクシング部時代にインターハイ3位。プロボクサーを経て、俳優活動を開始。08年『南京! 南京!』で中国映画デビュー。『デスノート』『ゴジラ FINAL WARS』などに出演。昨年、綾野剛主演のドラマ『アバランチ』(フジテレビ系)の悪役で注目を集めた。

INFORMATION

映画『生きててよかった』
公開中
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