映画『罪の棘』について語る勝矢さんが時おり口にしたのは、「日常」というワードだった。生活を日々積み上げる、平穏すら感じさせる響き。しかし本作が主題にしているのは、それとは相反する「罪」である。
勝矢さんは刑事の藤堂として、そこと対峙する。
「少年課の刑事だった藤堂の父親は家を顧みない仕事一筋の男で、思い出もほとんど残さずに殉職してしまいました。どんな思いで非行少年と向き合い、息子にはどんな思いを持っていたのか。何も語ることなく死んでしまった。だから確かめようのないわだかまりを藤堂は抱えています。ただ、そういう感情に縛られているだけではなくて日常も送っていた。刑事という仕事を選んだのも父親に対する思いとは別の、自分の意志だったと考えています」
主人公は絵李香(雅玭)という。物語は、交際した男に騙されて薬物事案の罪に問われ実刑を受けた絵李香が、仮釈放を許され更生に踏み出す日から始まる。支援するのは保護司の岩永(脇知弘)。住まいや働き先の後ろ盾を得た絵李香は、清掃員として新しい人生を手にしようと励むことになる。藤堂はその二人の日常に踏み込んでゆく。
「藤堂はマイペースなんです。と言っても“のんびり”という意味ではなくて、人に合わせず、時計の針のようにリズムを崩さない。刑事としても自己を確立しているんです」
大柄な身体を包むグレーの背広も洒落っ気とは無縁のワイシャツも、藤堂にとっては一課の刑事たる衣にすぎない。その男が横浜で起きた強盗殺人事件に臨場する。やがて明らかになるのが、過去の事件で使用された銃と同じ線条痕(ライフルマーク)だ。
「25年前、自分の父親が捜査中に死んだ強盗事件と目の前の事件が突然繫がった。時計の針のようにリズムを刻んでいた藤堂の日常は、感情によって乱されることになります」
被疑者として挙がったのは岩永だった。25年前、若さ故に強盗に関わってしまった岩永もまた罪を背負っていたのだ。駐車場の警備員として働き、保護司のボランティアも務める。その日常は大切な人との思い出が宿る75年式セリカをガレージに眠らせたまま若き日を埋めるようで、悔恨の思いと共に生きていた。
「藤堂からすれば“のうのう”と日常を送っている岩永が許せない。なぜなら、岩永には償わなければならない罪があって、そこから背を向けて生きてきたと映っているからです」
過ちを犯した者は、どう生きてゆけばよいのか――。岩永はいつか、誰かがくれた言葉を支えに日々を送る。
《サボテンの棘は、敵を攻撃するためじゃなくて、水滴を集めたり、砂漠での厳しい環境を生き抜くための機能なんです》
シャバと呼ぶ社会は、砂漠のようにドライで過酷な場所。だから、ともにこの世界を生き抜こうとサボテンと暮らす。岩永は、その誰かからの受け売りの言葉を絵李香にも贈り、一日一日を生きることを諭す。
「岩永も絵李香も善人なんです。いい人だから、普通に生きているだけなのに、誰かに惑わされ巻き込まれて、罪を負ってしまった」
過ちは小さな棘として心を苛むかもしれない。そこからの時間はこれまでとは違ってしまうかもしれない。それでも誰かが、何かが支えてくれる。この物語はそういう日常を映している。
かつや/1975年、兵庫県生まれ。『あしたのジョー』(2010)や『テルマエ・ロマエ』(12)の映画出演で注目を集める。『ゴールデンカムイ』(24)では牛山辰馬役を務める。今後の出演は映画『キングダム 魂の決戦』(7月17日公開)、ミュージカル『獅子 THE LION-BEAT』等。




