「今日は懐かしい曲しかやりません!」
ステージ上の財津和夫さんは、笑顔でそう宣言した。ホールを埋めた観客からは万雷の拍手。「心の旅」「虹とスニーカーの頃」「ブルー・スカイ」……。あの日、青春を彩ったチューリップ・サウンドが時空を越えてよみがえる。
4月から始まった今回のツアーは、チューリップの50周年を記念する特別なもの。同じだけ年を重ねてきたファンと再会する“同窓会”でもあると、財津さんは言う。
「昔からステージで演奏してきた定番曲を中心に選びました。皆さんと懐かしさを共有できることが僕らにとってもありがたい。50周年のお祭りなのでバラードは『青春の影』だけ。複数のリードボーカリストが歌い、メンバーのコーラスがそこに重なる。そんな“チューリップらしさ”を楽しんでほしいですね」
デビュー時からのメンバーで2014年に永眠した安部俊幸さんを追悼する曲の演奏も。ツアー序盤とあって、演出面などで試行錯誤が続く。
「最初は気楽に構えていたのですが、実際に始まると、寝ても覚めても、このツアーのことで頭がいっぱい。『年寄りだから、この辺で許してもらおう』と考えていた部分も、『やっぱり、もうちょっとがんばったほうがいいな』と思ってしまうんです」
「観客はマスク着用、発声は禁止」という制限下での公演にも戸惑いを感じるという。
「ステージから見ると、客席が、ある種、異様に感じるんですよ。静止画像を眺めているような、自分たちだけが空回りしているような……。で、曲が終わって拍手が来るとホッとする。アンコールのとき、客席と一緒に歌うことができないのもつらいですね」
だが観客のほうは、休憩を挟んで2時間半以上という充実のライブに大満足の様子だ。
現在、11月末までの日程(全20公演)が発表されているが、どうやらこのツアーは来年も続きそう。74歳の財津さんを筆頭に、メンバーの体調も少々気になる。
「飛び石的なスケジュールなので大丈夫じゃないでしょうか。5年前に大腸がんの手術をしましたが、以前よりむしろ元気になった気がします」
そういえば、紅茶党だったはずの財津さんが、取材中にコーヒーを飲んでいる。
「コーヒーは体に悪いと控えていたのに、がんになってしまった。節制もあまり意味がなかったな、と。そこで欲望に正直に、好きなものを好きなだけ飲んだり食べたりするようにしたら、食事がとてもおいしくなったんです。仕事でも、無理な挑戦はせずに、好きなこと、できることだけをやっています。それがどれだけ幸せなことか、最近、身に沁みて感じます」
心身ともに健康なら、79歳で迎える55周年への期待も高まる。あのポール・マッカートニーが、79歳で全米ツアーを敢行したことも励みになるのではないか。
「う~ん、1回限りの記念コンサートなら、できるかもしれません。でも、ツアーは絶対に、絶対に無理ですよ!」
ざいつかずお/1948年、福岡市生まれ。学生時代にチューリップを結成し、1972年、「魔法の黄色い靴」でデビュー。「心の旅」「サボテンの花」「青春の影」などヒット曲多数。ソロ活動のほか作曲家としても活躍。チューリップ50周年記念ツアーは、東京、愛知、福岡など11月末までの日程が発表されている。
INFORMATION
チューリップ50周年記念ツアー「the TULIP」
https://tulip.bitfan.id/