パリ、セーヌ川に浮かぶ木造建築の船。ここは、精神疾患を抱える人々が訪れ様々なワークショップやイベントを行うデイケアセンター〈アダマン〉だ。個人個人の趣味や特性にあわせて治療やケアを行うこのユニークなデイケアセンターに興味を持ったのは、ドキュメンタリー映画の巨匠ニコラ・フィリベール。

 以前『すべての些細な事柄』(96)で別の精神科クリニック(ラ・ボルド精神科診療所)を撮影した経験のあるフィリベール監督は、精神科医療の置かれた状況が日々悪化するなか、〈アダマン〉が独自の方法で人々のケアを続けていることに関心を抱き、映画の製作を決意。

〈アダマン〉を訪れる人々とその活動を撮影した『アダマン号に乗って』はベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞、世界各国で公開された。本作には、長年フィリベール監督と交流を続けてきた日本の配給会社ロングライドも、共同製作として参加している。

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© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride - 2022

私が撮りたいのは、ある出会いとそこから生まれる関係

――フィリベール監督の映画を見るといつも、撮影対象者がカメラの前で実に自然な様子であることに感動します。『アダマン号に乗って』に映る方々もみなとてもリラックスして見えましたが、撮影に入る前にどのような準備をしたのでしょうか。

フィリベール 最初はカメラを入れずに話をしました。全員の前でプロジェクトについて説明をし、カメラに映りたくなければ無理に参加しなくてもいい、一度OKしても次の日気分が乗らなければ撮影をやめてかまわないことなどを伝えました。そうするうちに、私が何かを裁いたり立ち入ったことを聞くためにここに来ているわけではないとみなさんわかってくれたようで、早い段階で信頼関係が出来上がりました。

 多くの人が、自発的に自分のことを話したいと考え、カメラの前で自由に話をしてくれた。私が彼らの意思を何より尊重していることを感じてもらえたからだと思います。

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride - 2022

――監督が一対一で患者さんと話をする場所は、それぞれの部屋や船のデッキ、みんなが集まるカフェだったりと毎回場所が変わっていますよね。撮影の場所選びはどのように行われたのでしょうか。