文春オンライン

連載クローズアップ

「実はリアルなのかも」「本当に分からなくなっているんじゃないか」若年性認知症を患う役を演じて…藤田朋子(57)が感じた“不安”の正体

藤田朋子(女優)――クローズアップ

2023/05/27

 映画『こわれること いきること』は介護施設で働く遥(吉田伶香)の成長を見つめる物語。藤田朋子さんは遥の高校時代の恩師・小田由美子を演じる。若年性認知症を患った由美子は、遥が働く施設に入所することになる。

「このお仕事をいただいた時、晩年に認知症を患った父を思うことがありました。それは、役で父の姿を模倣するということではなく、同じ症状を生む何かが私にも流れているのではないかという不安でした。だからか、普段は記憶から役を引っ張り出す作業なのに、今回は未来を“追体験”する気持ちで臨んでいました」

藤田朋子さん

 若年性認知症は65歳未満で発症する認知症をいう。由美子が診断された「レビー小体型認知症」は、レビー小体という物質が脳内の神経細胞を傷つけることでパーキンソン病や鬱のような症状を引き起こす病気だ。

ADVERTISEMENT

「認知症になると表情を失いながらも、時おり感情が見えることがあります。それは心のどこかで昔の状態に戻っているのだと思います。心が行き来する、そういう日常が由美子の中にあると思い演じました。ただ同時に、どこかで演技でありながら実はリアルなのかもしれない、本当に自分は分からなくなっているんじゃないか、この芝居が引き金になってしまうのではないかと思うこともありました」

 遥は、病気の進行によって運動機能が低下し幻視と対話を続ける由美子だけでなく、さまざまな入所者の介護を通して人が衰える姿を目の当たりにしていく。

 この作品は東日本大震災からの復興もテーマになっている。高校を卒業して福島県いわき市より上京した遥は、都会暮らしを謳歌するあまり故郷への思いを遠ざけていた。だが震災がすべてを飲み込み、家族を失ってしまう。遥は自分を責めることになる。

「震災から12年がたち、福島の人の中にはもう思い出したくない、話したくないという人もいるかもしれません。そういう心の奥にしまおうとしている後悔や傷は、映画という表現でなら伝えることができる、そう思いました」

 失われたもの。失ってしまったもの。それらと現在(いま)を結ぶのは高校時代大切にしていたフルートである。遥は吹奏楽部顧問だった由美子を招き、施設で小さな演奏会を開く。

「由美子の病状は進んでおり、娘のように可愛がった遥がフルートを奏でても記憶が蘇ることはなかったと思います。それでも音楽が何かを心に解き放った。演奏会の場面ではそれが映されているのだと思います。吉田伶香さんがフルートを吹くのは今回が初めてだったそうですが、とてもそうは感じさせない佇まいが素晴らしかったですね」

 藤田さんは今作で得たものについて、こう語ってくれた。

「我が身が認知症に冒されたら、生きるか死ぬか考えがまとまらない精神状態になると思います。でも生きるものの摂理として、きっと受け入れなければならない。残された時間を生きるのは不安ですが、忘却がやさしさとなるかもしれない。そんなふうにも思うんです」

ふじたともこ/1965年生まれ、東京都出身。87年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のオーディションに合格し舞台デビュー。88年NHK連続テレビ小説『ノンちゃんの夢』のヒロインを演じる。90年からTBSドラマ『渡る世間は鬼ばかり』シリーズに出演。以後、数多くのドラマ、映画、舞台に出演している。 

INFORMATION

映画『こわれること いきること』
5月26日より全国順次公開
https://koikoto-movie.com/

「実はリアルなのかも」「本当に分からなくなっているんじゃないか」若年性認知症を患う役を演じて…藤田朋子(57)が感じた“不安”の正体

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー

関連記事