おっしゃるように、カラムを撮るときはいつも何かものが遮っていたり、背中から映したりしています。ソフィはカラムについて知りたいと願い記憶を掘り起こしていくけれど、決して理解できない部分は残りつづける。そのことを、観客にも感じ取ってもらいたかったのです。
またズームの使い方にも工夫しました。序盤で、カメラがベッドで寝ているソフィの体を通り過ぎて、ベランダにいるカラムにゆっくりとズームインしていくシーンがあります。そうすることによって、観客にどういうふうにこの映画を見たらいいか示してあげよう、という意図がありました。
基本的に、ズーム機能はカラムを映すときにしか使っていません。本来、人間の目には備わっていないズームという不自然な動きによって、ここには普通とは違う視点が存在することに気づいてほしかった。体から魂が離れて、彼ら親子を見つめているような感覚でもありますね。
――日常をリアルに映したように見えて、ふとした瞬間に非現実的な視点が入ってくるわけですね。
ウェルズ そうですね。これは私が短編の製作を通して学んだ手法でもあるんです。私が目指したのは、物語の設定や俳優たちのパフォーマンスはどれも自然でリアルだけど、カメラの動きによって、ふとした瞬間に現実から一歩引いて俯瞰的にそれらを眺める、そうしてそこにいる人物の内面を表現する、という世界観です。
『Tuesday』という短編のなかでも、ずっと主人公の視点に寄り添っていたカメラが、最後ふっと遠ざかり部屋の中から外にいる主人公とその家族をじっと見つめるシーンがあります。これまでの短編で試してきた方法を、初めての長編となる本作で完成させた、といえるかもしれません。
「彼はきっと自分でも何が問題か理解していないんだと思う」
――出演している俳優さんたちの演技はとても自然で、まるで本当の親子のような親密さを感じました。どのように彼らを演出したのでしょうか?