返還直前の香港で疾走する少年少女の刹那的な青春を描いた『メイド・イン・ホンコン』(97)で旋風を巻き起こしたフルーツ・チャン監督。近年はホラー、アクション、ドラマと多彩な作品を発表しているが、新作はホラー・オムニバス『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』の一編、「デッド・モール」。
「今作にはプロデューサーから依頼を受けて参加したんだ。脚本はすでに出来ていたけど、キャラクターの関係性や物語の展開に色々と手を加えて、面白くなったと思うよ。ホラーは色々な可能性を持っているジャンル。幽霊や怪物が出なくてもいい。ホラーは基本的に、愛と恨み、そして復讐から成り立っていると思う。それらの要素さえ取り込めばホラーになるし、同時にサスペンスでもコメディでも、社会の現状を反映したヒューマンドラマになってもいいと思う」
「デッド・モール」が描くのは、閉店後のショッピング・モールでの恐怖の一夜だ。投資系動画配信者の男と、このモールに流れる幽霊の噂を確かめようとする動画配信者の少女。そこに謎のガスマスクの女が現れ、惨劇の幕が開く。
「今はネットのインフルエンサーが強い影響力を持っていて、フォロワー数を増やしたり、『いいね』を稼ぐために、彼らは度を越した行動をする。こうした現象には前から興味を持っていた。動画配信×復讐、それが今回のテーマだね」
複数の動画配信者がモール内で同時に配信することで、視聴者は別の場所で起こっていることを同時に観ることができる。いま起きている怪異現象や惨劇を、多くの視聴者がリアルタイムで見て、反応する。まさに現代的な恐怖劇だ。ショッピング・モールと言えばホラーの王道の舞台だが、撮影は大変だった。
「メインロケで使うモールをなかなか見つけることができなかった。コロナ禍の真っ最中でもあり、どこも貸してくれないんだ。最終的に出資者の一人が経営していたモールを借りて撮影できたけれど、予算の関係で撮影日数が6日間しかなかったうえに、営業時間外にしか撮影できないという約束があってかなり苦労したよ」
返還から四半世紀が過ぎ、香港の映画界はどう変わってきただろうか。
「ご存じのように香港映画は娯楽作品が主流だった。けれど近年は、社会を反映するヒューマンドラマが流行になった。ほとんどの新人監督がそういうテーマで映画を制作し、社会性が強い映画がヒットしていた。ところが今年に入ってからそういう社会性が強い映画も興行的に厳しくなってきた。香港の観客はあまり変わっていなかったのではないかと思う。僕はもともと娯楽映画志向で、映画祭で評価されるような作品より、観客を退屈させない映画を作りたい。だけど同じようなスタイル、内容の映画を作ることには抵抗感を覚えるので、常に新しい挑戦をしていきたいね」
Fruit Chan/1959年、中国広東省生まれ。映画監督、プロデューサー、脚本家。97年の『メイド・イン・ホンコン』は香港電影金像奨や台湾の金馬奨で最優秀監督賞を受賞、世界の映画祭で評価される。他に『ドリアン・ドリアン』(2000)、『ミッドナイト・アフター』(14)、『三人の夫』(18)などがある。
INFORMATION
映画『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』
(12月1日公開)
https://hk-kaiki-movie.musashino-k.jp/