テクノロジーが発展した「太陽の王国」と、自然との結びつきを重んじる「月の王国」。敵対する2カ国から魔法の森にやってきたのは、秘密エージェントのクラエとブルーオ。巨人によって脅かされている魔法の森を守るため、少年たちは、渋々手を結び、森を救う謎の存在「ペルリンプス」を探し始める。長編アニメーション映画『ペルリンプスと秘密の森』は、前作『父を探して』がアカデミー賞にノミネートされるなど世界中で絶賛されたブラジルのアレ・アブレウ監督の最新作。製作に約7年もの時間がかかったという本作はどのように生まれたのか。

アレ・アブレウ監督 ©Buriti Filmes, 2022.

「前作の製作が終わってすぐに『ペルリンプス』の最初のイメージが浮かんできました。狼の化粧をした男の子が水たまりから出てきて、化粧が崩れてぐしゃぐしゃになった顔のまま森の中を歩き出す。私の頭に浮かんできたこのイメージの中に何が潜んでいるのか、それを探すことからすべては始まりました。やがて、これは1人の少年が子供の世界から出て大人になろうとしている瞬間だとわかってきた。それからは様々なイメージのピースを組み合わせながら物語を作っていきました」

 驚くのは画面いっぱいに溢れる多彩な色と豊かな音。セリフを排し極めてシンプルなドローイングによって作り上げた前作『父を探して』と比べ、その作風は大きく変化したように思える。

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「『ペルリンプス』は『父を探して』の対極にあるような作品だと思います。前作は一つのイメージから出発し結末を決めないままほぼ1人で絵コンテを描き進めていきましたが、今回は予め物語をしっかり練り上げ、チームのみんなと一緒に製作していきました。もちろんクラエとブルーオの造形をはじめ、今回も主な画面設計は自分で手がけてはいますが、製作体制や色彩の数、費用の面では大きく飛躍しました。『父を探して』の成功が新たな道を拓いてくれたんだと思います」

 森を救おうと奔走する少年たちの冒険はやがて壮大な物語へと発展していく。巨人に破壊される美しき森。戦争によって引き裂かれる子供たち。背景にはアマゾンの森林破壊や世界各地で起きている戦争への警告があるのだろうか。

「実のところ、戦争や環境破壊をテーマにした映画を作ろうとは考えていませんでした。でもブラジル人として、アマゾンの破壊や先住民との関係性といった問題が常に身近にあるのは確かですし、世界の状況が表現の中に現れてくるのはごく自然なことですよね。

©Buriti Filmes, 2022.

 考えていたのは、森とは子供時代そのものだということ。大人になるにつれ幼い頃の記憶はどんどん薄れていく。ここで描かれる戦争は子供時代の美しさを見失ってしまった大人の姿を表すものであり、物語の根底には、失われたものに対する郷愁(サウダージ)があります。そしてそれは、常にアーティストとしての私を引っ張っていってくれる大事な主題でもある。前作にもやはり共通する部分があると思います」

 子供だけでなく、かつて子供だった人々のための作品でもあるのだ。

「親子で対話をするにはぴったりの映画でしょうね。子供たちには『本当に大事なものを忘れないで』という思いを、大人たちには、ここに登場するある人のように『もう一度森に戻ってきて』というメッセージをこめています」

Alê Abreu/1971年、サンパウロ生まれ。1990年から短編アニメーションの製作を始め、2013年の長編映画『父を探して』がアヌシー国際アニメーション映画祭最高賞を受賞、また南米の長編アニメとして初めてアカデミー賞にノミネートされ大きな注目を集めた。

INFORMATION

映画『ペルリンプスと秘密の森』
(12月1日公開)
https://child-film.com/perlimps/