昨秋、香港四天王の1人アーロン・クォックが第32回東京国際映画祭のため来日。同映画祭ではチョウ・ユンファと共演した大作サスペンス『プロジェクト・グーテンベルク-贋札王-』(18)、ホームレスを題材にした『ファストフード店の住人たち』(19)と2年連続して主演作が上映された。毛色は全く違うが、どちらも香港映画らしい作品だ。
「香港の街並みがあり、市民がいれば、それはもちろん香港の映画なんですが、加えて俳優が映画に懸ける異様な情熱を感じられるのが、香港映画だと思うんです。監督も俳優も映画に没頭している。そして香港の文化や、問題が描かれていること。『ファストフード……』も香港の住宅問題が背景にあってこその作品です。香港映画の基本路線は『プロジェクト・グーテンベルク』のような娯楽犯罪映画ですが、映画にはもうひとつ、啓発という役割がある。僕はそこも追求していきたいですね」
2月7日公開の『プロジェクト・グーテンベルク』では贋札作りの達人である元画家、『ファストフード店の住人たち』では成功者から転落しホームレスになった男を演じる。どちらも挫折者だ。アイドル出身で長年トップスターであり続ける、いわば香港のキムタクが、こうした負け犬や庶民にリアリティを持たせる秘訣とは?
「自分を捨てること。でも過去に演じた役というのは、ありがたい人生経験だと思っています。その人として生き、喜怒哀楽を感じたのだから、それは活かせる。役に入ると撮影以外でも、自分が表に出てこないように生活をしています。ホームレスで貧困の中にいるのだから、常に飢餓状態でないとおかしい。リアリティを出すために、撮影中はほとんど何も食べないようにしていました。同時に肺ガンにかかる役なのですが、あまりにのめり込んで自分が肺ガンになった気がしてきて、病院に行ったほどです。何も問題はなかったんですけどね」
Aaron Kwok/1965年生まれ。2005年と2006年の2年連続で金馬奨の最優秀主演男優賞、第1回海南島国際映画祭で最優秀男優賞受賞。
INFORMATION
映画『ファストフード店の住人たち』
https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32ASF08(東京国際映画祭公式サイト)