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――本作では加害者側の変容の過程を非常にリアルに描いています。一度は翔も変容しながら、ちょっとしたきっかけで彩にキレてしまう場面がありました。モラハラ被害者と加害者の双方の目線から、非常に印象に残りました。

翔は自分の変容を彩に認めてほしいが…

 翔が本音ではまだ腑に落ちていない、ところが出てしまった場面ですね。自分が加害者だったということを受け入れるのは非常に難しいこと。キレてしまった後の、「(彩たちに)聞こえていない『ごめん』」の場面が私自身も印象に残っています。まだ翔が「変わっている途中」であることが現れた場面であり、リアリティにつながったと思います。

――家族の中で、相手の気持ちと自分の気持ちのバランスの取り方に悩む読者も多いのではないでしょうか。

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 家族関係だから、持続可能でなくては意味がないですよね。相手に合わせてばかりだと時に爆発してしまったり、短期間しか続かなかったりするでしょうね。自分の機嫌は自分でとる。自分を大事にすることが、相手も大事にできる一歩かと思います。

 翔は、自分が受けてきた傷に気づけたからこそ、相手(彩)の痛みにも気づけたと思います。自分の痛みを自覚したことで、「自分を大事にする」意味がわかったのだと思います。

自分自身の痛みに気づく翔

2人はどんな未来を選ぶのか…男性からの反応は?

――世間一般では「離婚はしない方がいい」という考えも根強くあります。先生個人の離婚に対する考えをお聞かせください。また、その考えは今作にも盛り込まれていますか?

 自分自身に離婚経験があるので、離婚を特に悪いとは思っていません。一緒にいない方がいいパートナーもあると思っています。

 翔と彩がどんな選択をするのかは、ぜひ最後まで読んでみてください。この作品の結末は最初から決めていました。「恐らく変わらないであろう夫」、「99%離婚しかないだろう」という状況から、1%の希望をどう描くかがこの作品の主題です。離婚する・しない、自分で決めたことが正解だと思います。

――これまでに届いている読者の反応にはどんなものがありましたか?

 「まさに私の夫(父)だ」という感想と「こんな人、いる?」「いますよ!」という両極端な反応があったのが面白く思いました。男性自身から「自分がこうなっていないか気になる」という率直な感想もありました。単純に「妻がモラハラ夫に復讐してスカッとさせるマンガだろうと思って読み始めたら、そうではなかった」という感想も、ちゃんと意図が伝わっているのがわかって嬉しかったです。

 妻は、自分のされていることはモラハラで、DVの一種であると気づき、夫は、自分は加害者だったと気づく。本作はそして変わろうとし始める一組の夫婦の物語です。龍たまこ先生は、作品やブログを通じて、「生きづらさ」を抱えている人たちを元気づけたいということです。今後も描きたいテーマは「家族」。美化されがちながら、密室でグロテスクにもなりかねない関係。そこをリアルに切り取った本作。結末はどうなるのか……ぜひ本でお読みださい。