龍 モデルは特にいません。翔は「モラハラのデパート」のような人にしようとして描きました。表情のバリエーションは特に意識していませんでしたが、その時その時、自分も翔の気持ちになって描いていたと思います。
だから描いていて苦戦したところは、モラハラ場面です。キツく当たっている様子をリアルに描くことは、自分もキツかったですね。
――今作で描かれているように、SNSで助けられている人は多いのでしょうか?
龍 多いようです。GADHA(作中では「NoMA」)そのものが、オンラインの活動が主体です。自分の変容を書き出すスレッドや加害を正直に吐露するスレッド、ただただ弱音を吐くスレッドなどがあり、それを書き込んだり読んだりしながら、「一緒に頑張りましょう」という自助グループなのです。
顔が見えないからこそ言えることが多く、弱音もはけるのだと思います。
――こだわったエピソードはありましたか?
龍 翔の上司の鳥羽(翔の上司)の場面です。鳥羽は家族が出て行ったことを受け入れられない翔に対して、さりげなく自身の経験を開示しながら、アドバイスをくれる存在として描かれています。実は鳥羽自身が、子どもに「毒親」と言われた過去を持っているのですが、それを翔に述懐する場面は力を入れましたね。
――鳥羽という人が近くにいたことは、翔にとってとても大きかったと思えます。
龍 私も鳥羽は描いていて、いちばん楽しかったキャラクターでした。一つひとつのセリフに背景がある人。目の前にいるかつての自分のような翔に対する優しさと、過去の鳥羽の経験がにじみ出るような表情、セリフをよく考えて描きました。
翔が自分について回想し、やがて今の自分が、柚とその未来にまで連鎖していくことに気づくエピソードも、鳥羽のある言葉をきっかけに始まります。