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 記者会見で『篤姫』の主演が宮﨑と発表されるや、記者席からどよめきが起こったという。彼女としてもこのオファーをもらったときは驚き、《朝ドラが終わって1年後にはもう、大河の撮影が始まる。その間、自分はどれだけ成長できているのかな?》と悩んだという(『日経エンタテインメント!』2008年2月号)。それでも、自分に声をかけてくれた人の気持ちがうれしくて、最終的に引き受けたのだった。

『篤姫』で主人公の天璋院(篤姫)の少女時代から晩年までを演じたことは、宮﨑にとって大きな財産となった。《劇中の「女の道は一本道」「一方聞いて沙汰するな」などのせりふは、私自身が生きていく中で大切にしたい言葉になりました。役者を続けていくうえでの責任感や楽しさも教えていただいたような気がします。それほどに、〈篤姫〉からの“学び”は大きいものでした》と、のちに振り返っている(『ステラ』2020年8月7・14日号)。

©文藝春秋

「隠し事もないし、胸を張って生きていられる」

 朝ドラに続き、大河の主演を務めたことで、国民的女優へと一気に駆け上がった。本人としても自信をつけたのだろう、当時のインタビューでは、《周囲の人には「生き急いでいるね!」って、よく言われます(笑)。/つい先日も仲のいいスタッフさんと「いつ死んでもいいよね」って話していたんですけど、「あおいは、まだ22歳でしょ?」って。でも、それくらい今を全力で生きている。隠し事もないし、胸を張って生きていられる。それはすごく幸せだなって思います》と語るほどであった(『日経エンタテインメント!』前掲号)。

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 その後も映画を中心に数多くの作品に出演し、活躍を続けられたのも、常に全力でやってきたからだろう。役づくりにも余念がなく、映画『初恋』(2006年)で三億円事件の犯人を演じるにあたっては、バイクを運転するシーンをスタントなしで撮りたいがために免許を取った。近年でも、ドラマ『あにいもうと』(2018年)で大型トラックの運転手を演じるので、石井ふく子プロデューサーに頼んで教習所に通わせてもらい、大型自動車免許を取得、劇中で本当に自ら運転した。

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 しかし、彼女のそうしたまっすぐなところに、やや懸念を覚える人もいた。映画『怒り』(2016年)で親子の役で共演した渡辺謙である。同作公開時の対談のなかで渡辺は、当時30歳になっていた宮﨑に対し、自身が30歳のとき白血病で休業したのを機に、力を抜くことを覚えたという経験から、《これは適当にやるということではなくてね、真正面からぶつかるばかりでなく、あらゆる角度から柔軟に狙っていくぞ、と思えるようになったということ。そんなしなやかさというか、いい意味のいい加減さみたいなものが出てくると、女優・宮﨑あおいは、さらにおもしろい人になるんじゃないかなあ》とアドバイスした(『婦人公論』2016年9月27日号)。

 渡辺はちょうどそのころ、実の娘である杏が出産したので病院に駆けつけると、彼女が満ち足りた表情で、それまで頑張ってきた仕事についても「いまは全然考えていない」と言うのを聞いて、父親として心からよかったと思えたという。そこで先の言葉とあわせ、《だからあおいちゃんにも、「心から私は幸せです。ほかには何もいりません」という瞬間を迎えてほしいんだよなあ》とも伝えていた(前掲)。