Q 英BBCの報道に抗議…いったいなぜ?
イギリスの公共放送であるBBCが、イスラム武装組織「ハマス」を「テロリスト」と報道しないことについて、英国内で抗議や批判が起こっているとSNSでみました。いったいなぜなのでしょうか? また、こうしたBBCの姿勢が世論にもたらす影響というのはどういったものなのでしょうか。(50代・男性・公務員)
A 「事実を事実として報じる」という伝統を持っているのです
この動きを見て、私は1982年に起きた「フォークランド紛争」を思い出しました。アルゼンチンの沖合にあるイギリス領のフォークランド諸島に対し、アルゼンチンの軍事政権が「ここはアルゼンチン領のマルビナス諸島であり、島を取り返す」と称して攻撃・占領。これにイギリス軍が反撃した事件です。
このときBBCは放送で自国の軍隊を「イギリス軍」と報じました。これに保守党の議員が反発し、議会で「なぜわが軍と報じないのだ。愛国心がないのではないか」とBBCの会長を追及したのです。
すると会長は、「事実を事実として報じているのであり、あなたに愛国心について説教される所以はない」とはねつけました。BBCはこの伝統を持っているのです。
ハマスの行動は明らかに「テロ」ですが、「テロリスト」という呼称には政治的な印象がしみついています。「テロリスト」と呼ぶのはイスラエル政府であり、「抑圧された者による正義の抵抗だ」と主張する勢力も存在するからです。そこで、政治的な主張のイメージを感じさせない客観的な形容として、事実である「武装組織」という表現を使っているのです。
《池上彰 緊急寄稿》イスラエル・ハマス戦争の衝撃「私が歩いたガザの悪臭と絶望」