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姉弟は、ほぼ不登校のような状態だった。父親に制服をハサミで切り裂かれ、教科書は水没させられていた。たえは切り裂かれた制服を縫い合わせたが、虐待による外傷が目立つ日には登校を阻止された。
「学校へ行けないから友だちと呼べる人もいなかったし、勉強はもちろんついていけない。恥ずかしい話ですが、私も弟も算数は分数までしかわかりませんでした」
「服従します」弟と2人で土下座
たまたま登校した日、たえはクラスの女子が交際相手との性行為の話題で盛り上がっているのを耳にした。「あれ、私は父親にされている」と体が硬直した。
父親はそういう行為をするたび、「絶対に外で言うなよ。お前とおれがやっているのはいけないことなんだからな」と釘を刺していた。何かがおかしいと思いながらも、“いけないこと”の共犯のような感覚を植え付けられ、誰にも聞けずにいた。中学3年生のたえは性被害の認識を持ちはじめ、自分の体を切り裂きたいと思うようになる。
一方でこの時、切り裂きたいという思いを性加害者=父親に向けることはなかった。
「支配されていたということでしょうね。中学時代、よく弟と2人で『服従します』と土下座させられていましたから。そういう関係性しか知らずに育った影響はいまだに残っていて、人との付き合い方が相手の言いなりになりやすいです。弟も生前そういうタイプでした」