小学校時代、担任教師から継続して性暴力を受け続けていたという男性・石丸素介さん(39)が、実名・顔出しでインタビューに応じ、卑劣な実態を赤裸々に語った。性暴力の実情を長年取材するジャーナリスト・秋山千佳氏の徹底取材。
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PTSD、うつ病、双極性障害に
石丸さんは現在無職で、1日に飲む薬は8種類30錠ほど。今は週1回の通院日以外、部屋の外に出ることはほとんどない。
「PTSDと診断されています。うつ病も併発して、治療が難航するうちに気分の波ができるようになって今は双極性障害になりました」
性暴力の被害について、石丸さんは、21歳になった2004年の夏に、今の主治医の初診で打ち明けるまで誰にも言えずに抱えてきた。当時のカルテにも記録されている。
2016年、その元担任が男児へのわいせつ事案で逮捕された。報道を目にした石丸さんは、刑事では時効の20年前の自身の性被害について、民事で裁判所へ訴える決意をした。しかし、元担任は石丸さんへのわいせつ行為を全面的に否認。調停は不成立に終わり、一審は証拠不十分で石丸さんが敗訴した。
しかし現在進行中の二審では、証人が見つかったことなどから、元担任のこれまでの証言の信憑性が揺らいできている。
石丸さんは裁判の過程で、こうして戦える自分はまだ恵まれているのではないかと考えた。
「日本では、男性の性被害は日の目を見てこなかった。数の割にはカミングアウトできていない人が多いと思います。そういう人たちのために僕の経験を伝えたいし、僕自身も語ることをきっかけに、かつての自分を取り戻したい」
こうして石丸さんは実名・顔出しで性被害の実情を告発することにした。
「鯖折り」で逆らえないように
当時41歳だった担任教師・奥田(仮名)に対して、石丸さんの第一印象は「変わった先生」だった。杉並区立小学校で石丸さんの所属していたサッカー部の指導に加わったが、過去の勤務校での実績を吹聴するわりに、小学生の目にも競技の知識がないように映った。奥田は指導をめぐる人間関係で揉めて1年ほどの間に部を離れることになるが、その間に石丸さんにとって一つの事件があった。
石丸さんが休み時間に同級生と廊下ではしゃいでいた時のことだった。奥田がやってきて、なぜか石丸さんにだけ騒いだ罰として、相撲の決まり手である「鯖折り」をしたのだ。上からのしかかるように相手の腰を砕く技だ。その危険性から、小中学生の相撲大会では反則技となることが珍しくない。
9歳の石丸さんは技をかけられて呼吸ができず、後には強烈な苦しさと痛みの記憶が残った。
「圧倒的な力の差で、大人の力にはかなわないんだぞと見せつけられたように感じました。最初に暴力によって逆らえないようにされてしまったんです」
石丸さんは恐怖から、奥田に従順になった。結果、奥田のお気に入りになったようだった。サッカー部で補欠からレギュラーへの昇格が言い渡されたのだ。石丸さんは後に、実力による評価というより、奥田が立場を利用して力関係を示すためだったのではと考えるようになる。
さほど接触機会があったわけではないサッカー部での1年間だったが、「今思えば、もうコントロールが始まっていたんだと思います」と石丸さんは振り返る。
4年生になると、奥田が担任になった。大型連休が明けた頃には、毎日のように、学校生活の中で奥田からこう呼び寄せられるようになった。
「素介、ちょっとこっち来い」
休み時間、授業中、体育の着替え前後……奥田の手が空く数分間に、その声は降ってきた。
わいせつ行為の始まりだった。