周囲は「先生のペットみたいなものだ」
教室の前方中央の教員用机は、相対する児童の席からは足元が見えないようになっている。机で隠れている回転椅子に座る奥田は、石丸さんを呼び寄せると、背後から抱えるように膝に乗せた。
そして、大腿部から半ズボンの隙間、パンツの下へと手を滑らせ、陰部を触るのだ。
石丸さんは混乱や恐怖で、無言で体をこわばらせることしかできなかった。
対照的に奥田は、他の児童が同じ空間にいるのに平然としていた。石丸さんの陰部を触っている間も、他の児童に「宿題やってきたか?」などと声をかけることがあった。石丸さんは言う。
「下半身が見えていない他の子からしたら、おかしなスキンシップには見えなかったかもしれません。石丸は先生と仲がいいな、くらいに捉えられていただろうと思います。仲がいいというか、まあ、先生のペットみたいなものだと」
石丸さんが抵抗できないのを見て取った奥田は、次第に声かけさえすることなく、無言で腕を引いて教員用机の向こうへ連れていくことが増えていった。
4年生の間に、さらなるわいせつ行為が加わった。奥田は終業までにこう言ってくる日があった。
「今日はお前の家まで送っていくよ。サッカーが終わったら教室に来なさい」
サッカー部の練習は夏なら午後6時、冬は5時頃までだった。練習を終えて教室へ行くと、教員用机の周りだけ電気をつけて奥田が待っていた。他には誰もいない。他の教職員が通りかかることもなかった。
奥田は「成長はどうなっているかな」と言いながら、石丸さんの服を脱がせた。最初は下着を残して、後には全裸にされたこともあった。
最初にこうされた時、石丸さんは手を振りほどこうとした。必死の抵抗だった。しかし腕を強く掴まれると、恐怖と諦めからそれ以上力が入らなくなってしまった。
奥田は服を脱がせると石丸さんを抱きしめ、「素介はいい子だ。素直に言うことを聞くいい子だ」と言いながら陰部をまさぐった。
石丸さんはこう分析する。
「えこひいきが激しくて、ちょっとでも奥田に反抗の色を見せる子や好きじゃない子には体罰や悪口が待っていました。子どもながらに自分を持っている子に対してきつかった気がしますね。僕は早々に自我を折られた“いい子”だったから、手を上げる必要もなかったのでしょう。何でも聞くロボットみたいになっちゃって、やりたい放題させてしまった」
表沙汰になりにくいが、男児の性被害は決して少なくない。それは多くの被害者が記憶に一時的にフタをするのに加え、保護者をはじめ周囲の大人が「まさか男子が」と被害のサインを見過ごすからだという。
石丸さんも吐き気などの身体症状に悩まされながらも、中学3年生の頃には勉強にもある程度打ち込めるようになり、難関高校に合格している。
だが、一時軽くなった吐き気や食欲不振の症状がぶり返し、3年生の時に不登校に。結局、高校を中退し、20歳の時、初めて精神科のクリニックを訪ねた。石丸さんが初めて、他者に性被害を打ち明けた瞬間だった。そして、ようやく両親にも打ち明けることができた――。
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本記事の全文、および秋山千佳氏の連載「ルポ男児の性被害」は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編 「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編 《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」
第2回・前編 中学担任教師からの性暴力 被害者実名・顔出し告発《職員室で涙の訴えも全員無視》
第2回・後編 《実名告発第2弾》中学担任教師から性暴力、34年後の勝訴とその後「ジャニー氏報道に自分を重ねる」
第3回・前編 《実名告発》ジャニー喜多川氏から受けた継続的な性暴力「同世代のJr.は“通過儀礼”と…」
第3回・後編 《抑うつ、性依存、自殺願望も》ジャニー喜多川氏による性暴力 トラウマの現実を元Jr.が実名告発
第4回・前編 「なぜ今さら言い出すのか」性被害を訴えた元ジャニーズJr.二本樹顕理さん 誹謗中傷に答える
第4回・後編 「ジャニーさんが合鍵を?」元Jr.二本樹顕理さんを襲った卑劣な“フェイクニュース”
第5回・前編 「性暴力がなければ障害者にならなかった」41歳男性が告発 小学3年の夏休みに近所の公衆トイレで…
第5回・後編 《母は髪がどんどん抜け、妹からは「キモい」と…》性被害後の家族の“拒否反応”の真実 41歳男性が告白
第6回・前編 目の前で弟に性虐待を行う父親 「ほら見ろよ」横で母親は笑っていた《姉が覚悟の実名告発》
第6回・後編 「絶対に外で言うなよ」父親の日常的暴力と性虐待の末に29歳で弟は自殺した《姉が実名告発》
第7回・前編 NHK朝ドラ主演女優・藤田三保子氏が“性虐待の元凶”を実名告発「よく死ななかったと思うほどの地獄」
第7回・後編 「昔、兄にいたずらされたことが」塚原たえさんの叔母、藤田三保子氏が“虐待の連鎖”を実名告発
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秋山千佳サイト http://akiyamachika.com/contact/