「一昔前は警察と飲みながら情報交換をしてポケットに札をねじ込んだりしたが、今は絶対に金は受け取らない」
50代ヤクザの幹部を取材してわかった、今の警察がヤクザと癒着しない理由とは? 裏社会に入り込み、その実態を明かしてきたフリーライターの真樹哲也氏の文庫『日本で暗躍する外国人マフィア』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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警察がヤクザと癒着しなくなった理由
──2019年6月に、静岡県南伊豆町の港で覚醒剤約1トン(末端価格約600億円相当)を船で密輸したとして、覚醒剤取締法違反の疑いで中国籍の男7人が逮捕されました。日本史上最大の覚醒剤密輸事件としてメディアは取り上げましたし、裏社会でも大きな話題となりました。警視庁は背後にヤクザが関与していると長期間の内偵をおこなった末に、逮捕に踏み切れたと聞きます。
また、同月に香港から覚醒剤約43キロ(末端価格約25億8000万円相当)を船で密輸したとして、警視庁は覚醒剤取締法違反の疑いで、メキシコ国籍の男1人とイラン国籍の男2人の計3人を逮捕しました。警視庁は背後にヤクザと国際的な密輸集団が関わっていると見て、長期間の泳がせ捜査をおこなった末に逮捕をしたといいます。最近の象徴的なヤクザと外国人マフィアが共同して起こした大きな事件だと思います。
幹部 これは恐らくの話になってしまうけれども、司法取引的なものがあると思うよ。日本では司法取引が2018年6月から導入されたが、ヤクザは完全に組織犯罪集団としてマークされている。大きな薬物密輸事件を挙げるためなら、検察や警察は何でもする。
昔はヤクザと警察との強い交友関係があった。事件が挙がる前に警察から連絡がきて、組員の誰を逮捕者で差し出すかを話し合うなんてよくあった。現在はきちんとそれができていないんだ。最近でも警察とヤクザは飲んだりしているが、金なんかの受け渡しは難しい。一昔前は警察と飲みながら情報交換をしてポケットに札をねじ込んだりしたが、今は絶対に金は受け取らない。そういう関係だと、ヤクザも警察に情報を渡せないよな。昔は持ちつ持たれつでやってきたから、どう考えても警察だけの収入だと買えない時計を付けていたり、高級車に乗っていたり、良い家を買ったヤクザ担当の警官なんかがゴロゴロいたんだ。
癒着しなくなったのは世間の目と、ヤクザ壊滅を掲げるキャリア組の意向だろうな。実際にヤクザと関わるノンキャリアの現場組からすれば、ヤクザから情報が取れないので困っていると思うよ。だから結構、犯人が挙がらない事件が増えているね。警察は情報がないから、事件が起きてもどこの組織の誰が怪しいとか分からないんだよ。その点で司法取引はヤクザ潰しには画期的だ。
──最近はヤクザと芸能人の関係を問題にするスキャンダルが多いですが、ピエール瀧、田口淳之介など芸能人の薬物事件も相次いでいますね。そこのところも警察が誰から仕入れたかの背後関係を調べたい意図的なものだと思います。
芸能人と薬物というと、昔だと田代まさし、酒井法子、押尾学、少し前に小向美奈子、高部あい、ASKA、清原和博、田中聖などの事件がありました。芸能人が外国人マフィアから薬物を買ったりすることはあるのでしょうか?