文春オンライン

「ガサ入れの前には必ず連絡入ります」地元警察に渡す金額は毎月20万円…「歌舞伎町・ぼったくりの帝王」がなかなか捕まらなかったワケ

『歌舞伎町アンダーグラウンド』 #1

2023/06/03
note

 祖父は一代で百貨店を築いた経営者、両親はともにインテリで、兄弟の中には歯科医も……そんな家族のもとで育った男はなぜ「ぼったくりの帝王」になったのか? 歌舞伎町最大のキャッチバー・チェーン「Kグループ」を率いた影野臣直(かげの・とみなお)氏の人生を紹介。

 作家・本橋信宏氏の最新刊『歌舞伎町アンダーグラウンド』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

何が影野氏を「ぼったくりの帝王」にしたのか? ©駒草出版

◆◆◆

ADVERTISEMENT

歌舞伎町ルノアールで見た「元ぼったくりの帝王の宴」

「愛の街、恋の街、噂の花咲く宵の街、ここは新宿歌舞伎町、ご来店まことにありがとうございます。さあ、69番マリカさん、ハッスルハッスルハッスルタイム、よろしくお願いします。さ、ハッスルハッスルハッスルハッスル! 66番カエデさん、そろそろよろしくお願いします。さあ、ハッスルハッスル! 乗って参りましょう! 乗って参りましょう! ハッスルハッスルハッスルハッスル!」

 歌舞伎町の喫茶室ルノアールで、影野臣直が暇つぶしに得意の場内アナウンスをやりだした。

 流暢な語り口から、いかがわしさたっぷりの靄があたりに立ち込める。

「ありがとうございます、ありがとうございます。店内一杯に流れております、愛の名曲別れの名曲、メリー・ジェーン。これをラストソングとして本日の営業完全クローズ、完全終了とさせていただきます。素敵なお客様、まだまだまだまだまだまだまだまだお名残おしいですが、当店、警察当局の取り締まり厳しい折、11時45分過ぎてからの営業は固く固く禁じられております。ご了承いただきますようお願いいたします」

 まるで70年代大衆キャバレーにタイムスリップしたような錯覚に見舞われる。

 元ぼったくりの帝王の宴がつづく。

「星の降る夜はー そーれ、よいしょ、どっこい! あなたとふたりでー えーい、よいしょ、どっこい! ハッスルハッスルハッスルハッスル! ハッスルハッスルハッスルハッスル! ハッスルハッスルハッスルハッスル!」

 前作『高田馬場アンダーグラウンド』にも登場した影野臣直、十八番の場内アナウンスである。

 影野はテーブルのオレンジジュースで喉を潤す。

 酒は浴びるほど飲んできたが、十代のころからタバコは一度も吸ったことがなく、コーヒー、紅茶、コーラの類いも一切飲んだことがない。シンナーも覚醒剤もやったことはない。ぼったくりの帝王、意外とヘルシー。

「ベシャリが達者だったから、キャバレーの指示出しを任されたんです。高校生のときからバイトでやってましたよ。こっち(東京)にきてからステレオがほしくて歌舞伎町でも呼び込みをやってました」

関連記事