「いったい彼女はいまごろどうしてるんでしょうね。何食わぬ顔で主婦になってるのかなぁ」……作家の岩井志麻子氏の心を捕らえて、今も離さない「歌舞伎町で起きた2つの未解決殺人事件」とは?
作家・本橋信宏氏の最新刊『歌舞伎町アンダーグラウンド』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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岩井志麻子の人生を変えた「2つの事件」
「わたしは事件マニアなので、歌舞伎町というと1982年のディスコ殺人事件がすごく気になってて、小説にも書いたりしたんです。実際の事件は、家出中の中学生2人が新宿のディスコで遊んだあと、ゲームセンターにいたら男に声をかけられて車に乗って千葉の山奥まで連れられて、そこでアキレス腱を切られて惨殺される。もう1人は生き残るんですよね」
作家・岩井志麻子が歌舞伎町で起きた事件について語り出した。
岩井志麻子。1964年12月5日岡山県生まれ。旺盛な創作活動とともに私生活でも派手な活動をおこなう。テレビのレギュラー番組では、豹柄の全身タイツを着用し強烈な存在感を視聴者に与えている。
歌舞伎町に暮らしてすでに20年以上になる。
「ものすごく気になったのは、わたしは、殺された少女なのか生き残った少女なのか、どっちだったんだろうということです。自分はすごく個性的でありたいと思ってきたけど、田舎の平凡な子でしかないというのもわかってたんですよ。そんなわたしが、そういう目にあったときにどうやったら生き残れるんだろう。
目の前の男に気に入られようとするのか、やべぇ、こいつってすぐ逃げる勘を磨くのか。殺された女の子より、助かった子にすごく感情移入して、その後彼女はどうやって生きていくんだろうとずっと思っていました。いったい彼女はいまごろどうしてるんでしょうね。何食わぬ顔で主婦になってるのかなぁ」
作家のイマジネーションが膨らむ。
「ほんとに何食わぬ顔で生きてるのか、あるいは女子刑務所に入って、身を持ち崩して早死にしちゃったとか……。それがわたしのなかに歌舞伎町というものがものすごく刻まれた事件だったんです。それと1981年に起きたラブホテル連続殺人事件が印象に残っています。3人殺されたうちの1人がわたしより1つ上なんですよね。彼女は一番若かったはずですよ。殺されたラブホテルって全部、うちの近所なんです。
当時のホテルはなくなっているか、名前を変えて営業しているかでしょうね。都市伝説で、中森明菜の『少女A』は最年少の被害者のことを歌ってるんだと昔からいわれてるんです。ネットがない時代でもみんなそれを知ってたんですよね。最年少だった彼女が私より1つ上というのが、いかに昔かってことですけど。殺された彼女も不良少女で、けっこう美人で、タレントになりたいとか、当時流行った原宿の竹の子族とかに憧れたんでしょうね。非行に走って高校を中退して、いまでいうところのパパ活、援交みたいなことをしてて、殺されちゃうんですけど。
3件の事件の犯人が同一人物かどうかもよくわかってない。(殺害方法が)バラバラなんですよ。首を手で絞めたり、パンティストッキングで絞めたり。犯人は割と小柄なサラリーマン風といわれてるんですよね」