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「1人はアキレス腱を切られて惨殺される。もう1人は生き残るんですよね」犯人はその後も行方知れず…作家・岩井志麻子の人生を変えた「2つの未解決殺人事件」

『歌舞伎町アンダーグラウンド』 #2

2023/06/03
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衝撃を受けた「立ちんぼ同士のリンチ殺人」

 立ちんぼとはソープやピンサロ、ファッションヘルスといった風俗店に所属することなく、フリーランスの身で路上に立ち、通行人に声をかけて売春する職業をさす。

「ハイジアの周辺というと立ちんぼがいるところ。女ホームレスもいるんですよね。いまから5、6年以上前、ハイジアの前に立ってる女たち、だいたいみんなパンチが効いてますけど、思わず二度見してしまうすごい女がいたんです。

 肥満体で肝臓悪い系の肌の黒さ。真冬でもタンクトップでミニスカート、全身にタバコの火を押しつけた痕があるんですよ。いつもムスッっとしてて。この女を買う人がいるんだなあと思ってたんですが、あるとき、彼女のお腹が妊娠後期のように膨らんでいるんです。堕胎手術ができない明らかに産むしかない腹になっていると、わたしは気づくんです。どうなるのかと思っていたら、しばらくして、いなくなるんですよ。あれ? 産んだのかなぁ。無事に生まれて、元気にやってればいいがなぁと思いながら、家でテレビを見てたら……いました!

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 うちの近所のマンションで、立ちんぼ同士のリンチ殺人があったんです。ホストの取り合いかなんかで揉めたのか。4、5人の立ちんぼが1人の立ちんぼをリンチして殺しちゃったんですよ。逮捕されて連行されていく女のなかに、あ! あいつだ! 間違いないあいつだ。テロップで名前が出たから検索したんです。そうしたら、20代半ばのサブリーダーで、立ちんぼやりながら子どもを施設に預けてるみたいな情報が出てきて。やっぱり間違いなかった」

 事件は2014年初夏、119番通報で救急隊員が駆けつけたときには、女性が吐瀉物にまみれて布団に寝かされていた。

 全身を鉄パイプで乱打され、タバコの火とヘアアイロンを押しつけられた火傷痕が無数にあった。女たちはリンチをネット中継していた。

 犯行動機は「悪口をいわれ、腹が立ったのでやった」というものだった。

 被害者は生まれてすぐ父親が蒸発したため、児童養護施設に預けられ、12歳のときに母親が病死、姉と2人暮らしをしてきた。そのうち歌舞伎町に通いだし、ホスト遊びに熱中、いつしか立ちんぼになった。

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