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 東日本大震災による津波では、避難の呼び掛けや説得に当たっていた自治会役員、消防団員らが多数犠牲になった。災害時に第一線で活動するのは、日頃から地域で中心になってきた人だ。そうした人材が失われたのだから、復興への歩みは遅れた。高齢者の早期避難は自分が生きるためだけではない。若手を道連れにせず、地域の復興を妨げないようにするためでもあると強く認識しておくべきだ。

不便でも高台を離れず、津波による犠牲者を抑えた地域の教訓

 これら冒頭から述べてきた被災構造は多くの地区に共通していないだろうか。例えば、死者が100人を超えた19年の台風19号災害。7人が犠牲になった福島県本宮市で、2階まで浸かった住宅団地は、水害にしばしば見舞われてきた水田に造成されていた。同県郡山市では市史に「氾濫原」と書かれた土地に設けられた工業団地がまた水没した。長野市では新幹線基地が浸水したが、千曲川の洪水にさらされてきた地区に建設されていた。

都市部でも豪雨は増えている ©AFLO

 東日本大震災では、過去の津波災害を教訓に高台移転したものの、利便性を求めて低地に戻り、壊滅的な被害を受けた地区もある。かたや岩手県大船渡市三陸町の吉浜地区は、不便であっても高台から戻らず、津波による犠牲者を1人に抑えた。

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 気候変動の影響もあって頻発・激甚化する災害。生き延びるには何が必要だろう。経験に基づいた伝承に耳を澄ませる。科学に基づいたハザードマップを確認する。こうして土地を知り、何が起きるか想定して、すぐさま行動に移せるよう準備する。人間なら可能なことばかりだ。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。