昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「起きてから慌てるんじゃ遅いんよ」“スーパーボランティア”尾畠さんが語る自然災害で生死を分ける“心構え”

『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』より #1

2021/09/03

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 社会, ライフスタイル, 読書

 2018年、山口県周防大島町で行方不明だった2歳児を山中から発見し、一躍時の人となった尾畠さん。彼を評した「スーパーボランティア」という言葉はその年の流行語大賞にもなった。はたして実際の尾畠さんは一体どんな人物なのか――。

 ここではライター・フォトグラファーとして活躍する白石あづさ氏の著書『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』(文藝春秋)の一部を抜粋。3年にわたる交流を通じて明らかになった尾畠さんの素顔を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

被災地の噂話より、砂出し、泥かき

 日本人って海外どころか県外や市外のことはあんまり興味がないように思うんだわ。島国だからなのかな、「井の中の蛙、大海を知らず」でね。

 隣の市や県に津波や地震が来ても、対岸の火事くらいにしか思ってないんよ。2018年6月の西日本豪雨だって、関西や四国や九州なんかの県や市から、いったい何人の人がボランティアに行ったと思う? 思ったよりずっと少ないですよ。

 被災地周辺に住んどる人でもパチンコ行ったりな、酒を飲んだり、公共の風呂なんか行きよる人はいっぱいおって、そこで被災地の噂はする。

 けど、1回でも現地に行って、砂出しとか泥かきした人は、まず、あんまりいないんじゃないかな。それで、私に会うと、「尾畠さん、すごいな。年金生活なのによう行くな」ちゅう。でも、「ワシも連れて行ってよ」なんて言う人はまずおらん。たまに「行ってみたい」という人もおるけど、実際に行動に移す人はほんの一握りだね。「言うは易し、行うは難し」でな、口で言うのは簡単なんよ。

 ボランティアは強制で行くもんじゃない。だから考え方はいろいろでいいんだけど、もし、行きたいけど、かえって迷惑になるかもしれないと思っている人なら、あれこれ心配せずに、まずは思い切って行動してみてくれたら嬉しいわ。

人生には3つの坂がある

 世の中には、大きく分けて3つの坂があるんよ。山に行くとするでしょ。まず、「上り坂」をどんどん登るよね。これが1つ目。そして山頂に着いたら今度は「下り坂」を下るわな。これで2つ目。では、3つ目の坂は何でしょう? 生きていく上で一番、大事な坂なんだわ。その坂は目に見えないんです。ますます分からんって?

由布岳中腹のゆるやかな草原を登る。「人生、つらい時はこんなとこで草花を見たり、鳥の声を聞いたり、頬に風を当ててみたりするといいんじゃねえかと思うんじゃけどな」 ©白石あづさ

 仕方ない、教えましょう。それはな、「ま・さ・か」! 難しい漢字はちょっと分からないけど、「まさか」って使うでしょ? みんな笑うけどな、本当に「まさか」という坂があるの。「“まさか”こんなことが私に起きるとは」と。つまり「偶然」ってことよ。